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​                 精神医療を考える(Ⅳ)

 

第50回

 睡眠薬の代わりに使われている薬も結構ある。

「不安が強くて眠れない」と患者が訴えると「抗不安薬」が処方されるが。その正体は脳を働かなくさせて感情を消去しているといった方が適切であろう。

 

 四環系抗うつ薬や、トラゾドン塩酸塩(商品名レスリン、デジレル)といった鎮静系抗うつ薬も睡眠薬代わりによく処方される。又、抗うつ薬と睡眠薬をセットで処方されることも多い。

昼間はテンションアップ系の抗うつ薬を使い、夜はダウナー系で落ち着かせると、薬が効いた気になりやすいからなのだ。

 

 耐性がついて、ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が効かなくなると、中心神経への作用がより強いメジャートランキライザー(抗精神病薬)も足されることも多い。

 

 メジャー系の薬は、睡眠薬とは作用機序が異なり、強力な鎮静作用があるため、睡眠薬では眠れなくなった人が眠れるようにはなるかも知れない。

 

【しかし、ドーパミンの作用もおかしくなり、妄想や錯乱といった症状が現れたりする】

 

 睡眠薬の開発というのは、「脳内にある神経伝達物質の生成物質を、どうやって与えていくか」ということに特化して行われている。

「脳内にある○○という神経伝達物質が△△作用を示すから、増やした方がいい」「元々、脳内にあるものだから、増やしても安全」

これが、製薬会社が主張する基礎理論だが、そもそも、【そこに嘘の始まりがある】

 

【たとえ、体内に元々あるものであっても、与えてはいけないのだ】

【一時的には強力な作用を示しても、あっという間に依存したり、体内の受容体がどんどん切り替わって耐性がつくられ

脳内のバランスが狂ってしまうのだ】

 

 麻薬や覚せい剤にしても、農薬や向精神薬にしても、脳や体内の機能を狂わせる強力な依存をつくる物質は、全て【精製している】という共通の特徴を持つ。

 

【精製したものを与えられると、人はそれなしでは生きられなくなってしまう。砂糖が体に悪いといわれる理由もこれだ】

 糖分自体は体に必要なもので、脳がブドウ糖を使っていることも、筋肉の発達には糖分が必要であることも事実である。

 

 砂糖業界は、こうしたことを理由に「砂糖は体にいい」と主張する。

 

 しかし、炭水化物のように分解を重ねて糖になる間接糖ではなく、直接、ポンと吸収される砂糖が与えられると「あ~美味しい、もっと、もっと」とさらに欲しくなる。甘いものを食べると止められなくなるのは、この仕組みによる。

 

【酵素の働きなしに、糖がタンパク質や脂質に結合する反応を「糖化」というが、糖化が進むと体内では老化を促進するAGF(終末糖化産物)が生成され、「粥状動脈硬化」が進む】

 

【糖は直接、細胞を崩壊させやすくし、ウィルスや細菌に感染しやすくし、アトピーなどのアレルギーになりやすくなるし、がんにもなりやすくなる上、精神的にも人を狂わせる。砂糖は「最初に精製された覚せい剤」と言われる所以である】

 

 食品添加物も同じで、、その典型がグルタミン酸ナトリウム(化学的うま味調味料)だ。グルタミンとは、興奮系の神経伝達物質で、これを摂取すると、脳にダイレクトに伝わるため、砂糖同様「もっと、もっと」と欲しくなる。

次第に、依存がつくられ、習慣的に摂っているうちに、脳が損傷されていく。WHOは「子どもには食べさせてはいけない」と通達している。

 

 イギリスで、ネオニコチノイド系殺虫剤3種を添加したショ糖液と、全くそれを含まないショ糖液を用意し、マルハチ蜂数百匹とミツバチ数千匹に自由に摂取させる実験を行ったところ、どちらの蜂も、殺虫剤が添加されたショ糖液を好んで摂取した。つまり【殺虫剤で汚染された餌を好んで食べた】のである。

 

 ネオニコチノイド系殺虫剤とは、神経伝達物質であるアセチルコリンの受容体であるニコチン性アセチルコリン受容体に結合し、神経を興奮させ続けることで昆虫を死に至らしめるだ。

 

 それを、なぜ、蜂はわざわざ選んで食べようとするのかといえば、【それだけ中毒性が高く強力な依存がつくられると言うことなのだ】

「なんて馬鹿げた行為なのだ」と思うだろう。好んで甘いものを食べたり、グルタミン酸ナトリウム入りのポテトチップスを食べ始めたら止まらなくなったりするのと同じで、いかに愚かな行為であることか?

第51回

 今まで何千人もの断薬治療に関わってきたが、断薬を果たした人が必ず口にするのは、「こんな薬を信じていたなんて、(私は)どうしようもない」【自分がバカだった】という自己卑下の言葉だ。

 

 自分以外の誰かのせいにしている限り、薬への依存から決して抜け出すことは出来ない。

 

 これは、断言できる。

【自分がバカだった】と気づくことで、薬に依存していた自分を客観的に見ることが出来、【最悪だと思うから、本当に(自分に)いいことをやろうと心から思えるようになり、そうやって初めて、その後に起きる禁断症状に耐えられる土壌が出来るのだ】

 

【一度、完全に自己卑下しない限り、薬を使うことを何かしらの言い訳をすることで正当化しようとする】

自己卑下の次に気づくべきは、眠れなくなったのは何か問題があるのだから、その問題に対処しない限り治らないということである。

 

【原因を考え、その問題に対処する以外、解決の方法はない】

【不眠症に限らず、全ての精神疾患は、1つの症状という結果に対する病名でしかない】

 

 何らかのストレスで、うつ状態になるとうつ病、特定のことに対するこだわりが強いと強迫性障害など。

そして、薬で無理やり、その症状を消そうとする究極の対処療法・・・。

【だから「眠れないんです」と言って、医者にかかったところで、それぞれ抱えている問題が解決するわけではない】

それなのに、多くの患者は、医者なら治してくれるだろうと錯覚を抱き、医者の方も、そんな錯覚を抱かせてしまっている。

 どうやって睡眠薬を断てばいいのだろう?

一気に服用を止めるのではなく、漸減法といって少しずつ量を減らしていくことを勧める。

 

 例えば、1種類の睡眠薬の場合。強力で依存性が高くよく処方されているベンゾジアゼピン系睡眠薬である「ロヒプノール」「サイレース」などの場合は、上限2mgであれば、2mgから2週間間隔で、0.5mgずつ減らしていく。間隔は1週間おき、あるいは数日おきでもいい。

 

 又、複数の睡眠薬、あるいは抗不安薬や抗うつ薬などを服用している場合は、以下を原則に取り組むことを勧める。

 

 ①    多剤処方の場合は単剤処方を目指す。

 ② 最も有害な副作用を呈しているもの、強い禁断症状が出るものから抜く。

 ③ 相互作用を出しやすい薬やハイテンションにさせる薬は、早めに抜く(自傷他害を起こしやすいから)

 ④ 睡眠薬は最後に残す(減薬中に睡眠がとれた方が好都合だから)

 ⑤ 同系統の薬は抜きにくいものから抜く(薬の種類が多いときの方が難しい薬を抜きやすいから)

 

 現実には、減薬・断薬の方法に絶対はない。

​​第52回

「アシュトンマニュアル」は、イギリスの精神薬理学者ヘザー・アシュトン教授が、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の依存問題に取り組み、作成した減薬のためのマニュアルである。

 

 欧米では、ベンゾジアゼピン系薬物依存に陥った人にとってはバイブルのような存在で、日本でも日本語訳がネットでも公開されている。

 

 実は、私(内海)は、いくつかの理由から殆ど評価していない。このマニュアルには正しいことと、おかしなことがミックスされて記載されているからなのだ。

先ず、1つ目は、離脱方法の一つとして、ゼアジパムなどの長時間作用型のベンゾジアゼピン系薬物への切り替えを勧めている点である。

 

「マニュアル」には、短時間作用型のベンゾジアゼピン系では、血中濃度や組織内濃度をスムーズに低下させることは困難で、「ミニ禁断症状が生じるから」と書かれているが、その 長時間作用型にも問題があることは記述の通りで、実際、その方法で状態がさらに悪化した人を私はたくさん知っている。

 

 2つ目は、ベンゾジアゼピン系薬物をやめる1つの方法として、抗うつ薬や気分安定薬を追加する、維持することも検討されている点にある。

 

 マニュアル上で積極的に勧めているわけではないとはいえ、その方法を許容すること自体、私には信じられない。

今までの経験上、睡眠薬に抗うつ薬、気分安定薬を追加すれば悪化するのは目に見えている。

 

 3つ目は、このマニュアルの根底には、患者に対して「あなたは悪くない。あなたは被害者です」という偽善的な受け入れがあるからだ。だからこそ、この「アシュトンマニュアル」は人気が出たわけである。

 

 何度も言っているが、そう思っている限り、睡眠薬への依存からは決して抜け出せない。

あるいは、睡眠薬を止められたとしても、自立した生活を送ることは出来ないまま、向精神薬の薬害被害者であることを主張し続けている人が多い。【だが、それでは、本当の意味で「自分の人生」は決して歩めないだろう】

 減薬を進める過程で禁断症状が出て、又、薬を増やしてしまう人がいる。あるいは、減薬が順調に進んだのに、あと1種類、最後の0.5mgを0にすることが出来ないという人も結構多い。

 

 しかし、数多くの減薬・断薬の過程を見てきた私(内海)からすれば、それらは、減らし方が悪いわけではない。

【どんなにうまく減らしていっても、どこかで必ず禁断症状は出る。むしろ、出なければ、薬を止められないのだ】

禁断症状を出すのをいやがる人は、元々、何かしらの症状があることを嫌がる人だろう。だから睡眠薬に手が出たのだろう。それを変えられないということは【発想が切り替わっていない証である】

 

 睡眠薬を中止した場合、禁断症状として現れる不眠を、医学的には「反跳性不眠」と呼ぶ。

 

 個人によってその期間に差はあるが、長くて1ヶ月間、不眠に苦しむが、それ以上にわたって続く場合は、別の要因が隠れていることが多い。

 

 睡眠薬の減薬・断薬期間は、殆どの患者は仕事を休んでいる。睡眠薬に限らず向精神薬の断薬しようと思ったら、「仕事をしながら」「普通の生活をしながら」はなかなか難しい。

選べる選択肢は以下の2つしかない。

 

 1週間、眠れなくなることを恐れて、一生、睡眠薬を使い続けるか。

 1週間、眠れなくてもいいと覚悟して、睡眠薬を断ち切るか。

 

 私(内海)は、患者に次のように言っている。【眠れなくなっても、睡眠薬は使うな】

​​第53回

 本当に眠っていなくても、横になってまぶたを閉じるだけで、脳の休息はある程度とれる。それでも、睡眠状態の半分程度の休息効果があると言われている。

 不眠は、からだが出している何らかのサインで、人間にとってはそれは必要。

 

【全く不眠がない人の方が、死亡リスクが高いというデータがある】

 

 アメリカのカリフォルニア大学サンディエゴ校ダリエル・クリプキ教授が、1982年から8年間、30歳~102歳の110万人以上を追跡調査した結果によると、1ヶ月の間に「不眠を覚えることがない」と答えたグループの死亡率が最も高かった。しかも、女性に顕著であった(不眠がない死亡リスクを1とすると、月に1回位不眠を覚える女性の死亡リスクは0.81であった)

 これは、一体なぜか?

 

 普通に生きていれば、人は誰でも大なり小なりストレスを抱えるのが普通。

 

 不眠を覚えることなく、いくらでも眠れるという人は、危機感が足りないともいえる。

 たまに、すっきり眠れない日がある人の方が危機感が働いて、問題に対処しようとする人であるということなのかも知れない。

 

 又、この調査では、「睡眠時間と死亡リスクの関係」を調査した結果、「平均睡眠時間7時間の人が、一番死亡リスクが低く、それより減っても増えても死亡リスクは上がる」というのだ。

 

 しかし、他の研究によっては、中にはショートスリーパーの方が人生が充実して長生きするという研究結果もある。

 

【睡眠時間は人によって色々で、睡眠時間が短い、眠れない=悪いことでは決してないのである】

【率直に言えば、目が覚めたら起きればいいだけの話で、朝まで眠らなければいけない、7時まで眠らなければいけないというのは、ただ不要な常識に縛られているだけのように思う】

 薬を抜く方法は、シャブ抜きと同じである。

睡眠薬を含む向精神薬(脂溶性毒物全般)が怖いのは、体内(全身の脂肪、細胞膜、脳細胞)に毒物が蓄積されてしまうことだ。

その方法には「汗を流す」「脂肪を燃焼させる」というのがある。

 

 違法ドラッグを中心とした薬物離脱を支援するプログラムである「ナルコノン」では、離脱率80%超の実績がある。ちないに、精神医学での離脱はせいぜい10~20%しかない。

 

「ナルコノン」では、滞在型で1日5時間サウナに入り、それを数週間継続するが、その都度、大量の水とミネラルを摂取をし、体内の水分を入れ替えるという方法を行う。

サウナは、脂肪の燃焼を助け、汗として体外に排出させ、交感神経と副交感神経のバランスを整えるのにも大いに役立つ。

 

 又、有酸素運動も、サウナよりは解毒パワーは劣るものの、脂肪燃焼の観点から有用である。登山、マラソン、ジョギング、ウオーキング、太極拳、ヨガなどあるが、自分に合っているもので長続きするものを選べばいい。これらは、同時に呼吸法も学ぶことが出来る。

 

 ただ、解毒する過程で、突然、急な不安に襲われたり変な症状がパッと現れたりすることがある。

これは「薬物性フラッシュバック」「トリップ現象」で、脂肪が燃焼される過程で、貯蔵されていた薬物が再び活性化し、血液の中に戻り作用することで起こる現象なのだ。

 

【だから、解毒はしっかり行われなければならない】

 

 ベンゾジアゼピン系睡眠薬を服用していた患者の中で、断薬後、10年後に、たまに理由もなく強い不安に襲われることがある人もいる。

 

 薬物性フラッシュバックは、決して全員に起こるわけではないし、症状も人によって異なり、たいていは一時的、比較的短時間、現れることがある。

 

 その存在を知らなければ、「精神疾患が再発したのか」と、再び向精神薬を処方されてしまうかも知れない。

睡眠薬を含む向精神薬全般にいえることだが、妊娠中の服用は決してしてはいけない。障害児が生まれるリスクが高くなることがわかっている。しっかりとした解毒が必要である。

​​第54回

 不眠が続くとき、大きなストレスなど社会的要因が思いあたらない場合は、必ずそこに物理的な要因がある。考えられるのは以下の4つである。

 

 食べ物 電磁波 呼吸の仕方 昼間の活動量

 

「和食中心の雑食」は、がんや生活習慣病などいわゆる現代病が玄米菜食で回復したという体験を聞くことを考えても、玄米食には医療的な意味があると考えられる。

 

 食養生の1つの考え方である「まごわ、やさしい」(豆、ごま、わかめ、やさい、魚、しいたけ、いも)を意識して摂り入れるというのも、日本に昔からある食材ばかりで、不眠に限らず健康にいいと思われる。

 

 もう一つは、最近、非常に注目されている「糖質制限食」。直接糖である砂糖は絶対、厳禁で、体内で分解されて糖になる間接糖の穀物類も出来るだけ排除して、肉や魚、野菜、キノコ、海藻、タネ類(カボチャ、ごま、ひまわり)で栄養を摂るという考え方で、先住民を模倣していると思えばよい。

両方とも、得手不得手があり、どちらがいいとは一概には言えず、その人の体質や性格によっても、和食型があうのか、糖質制限食があうかは異なる。

 

 不眠に限って食生活を考えると、「興奮性の神経細胞毒をいかに避けるか」がポイントになる。

カフェインを多く含むコーヒー、紅茶、緑茶など、寝る前に飲むのは避けるというのは誰もが考える。

普通に食べているものの中に、こっそり入っていて気づきにくいのが、興奮性の神経細胞毒で、代表格は【砂糖、人工甘味料(アスパルテーム、スクラロース、サッカリンなど)、グルタミン酸ナトリウム(化学的うま味調味料)の3つである】

 

 神経細胞毒には2つあり、1つは脳の働きを抑制するダウナータイプのもので、農薬や水銀、アルミニウム、フッ素などであるが、もう1つは、上記の3つで、アッパータイプの興奮性毒物で、これらは一時的にテンションを上げる作用がある(疲れたときなど、甘いものを食べると、明るい気分になったり元気になったりする)

 

 ノースイースタン・オハイオ医科大学のラルフ・G・ウオルトン博士の発表した論文には「人工甘味料のアスパルテームの製造企業から研究費を出資された研究機関の74論文全てが『アスパルテームは安全である』と結論しているのに対して、その他の独立研究機関の90論文のうち83論文が『アスパルテームは脳腫瘍などの致命的な健康被害をもたらす危険性がある』と結論づけている」

 

 グルタミン酸ナトリウムについては、一時期、しきりに「危険だ」という情報が広まったはずなのに、「うま味調味料」「アミノ酸」といった名前で、殆どの加工食品に安易に使われている。

 

 あなたは、寝る前にスイーツや、人工甘味料が入った清涼飲料水、スポーツドリンクを飲んでいないか?

夜食にグルタミン酸ナトリウム満載の、インスタントラーメンやコンビニおにぎりを食べていないか?

それで、眠れないのは当たり前である。

 

 何れも神経細胞毒なので、健康全般を考えても避けた方がよい。

 

 興奮作用があることを考えると、寝る前は特に避けるべきである。

 人間は本来、日中に活動する生物で、決して夜行性ではない。しかし、今は、夜遅くまで外が明る過ぎて睡眠時間帯がずれて夜型の生活が一般化している。こうした社会の変化によって不眠が増えているのだ。

 

 電磁波については、全くと言っていい程、気にしていない人が多いが、気づかないうちに影響を受けている。

なぜ、電磁波が悪いのかというと、がんや白血病、アルツハイマーのリスクを高める危険性があるという健康被害もあるが、【睡眠に限って言えば、体内のメラトニンを減少させる唐である】

 

 室内で、電磁波を発しているものと言えば、様々な電化製品、特に電磁波が強いのがIH調理器や電子レンジである。

全ての前科製品が電磁波を出しいている。携帯電話やスマートフォン、タブレット、パソコンをベットの近くに置いている人は多いだろうが、こうした機器が睡眠を妨げることは言うまでもない。

 

 今や、家庭内でもWi-Fi環境を整備している人は多いだろう。電磁波を測定すると、Wi-Fiがオンになっているだけでも数値は上がるのだ。

 

 電磁波は脳をはじめ、体に影響を与えるが、感じない人は何も感じないだろう。

ただ、繊細な人ほど、何らかの症状として現れる。その一つが「不眠」である。

 

 呼吸には、胸式呼吸と腹式呼吸の2通りあり、息を出すときに腹がへっこみ、息を吸うときに腹が膨らむのが腹式呼吸で、息を吸うときに胸が膨らむのが胸式呼吸である。

人は眠っている時、無意識に「腹式呼吸」になるのが自然である。そうすると、自律神経のうちリラックスや平穏を導く副交感神経が強く働き、脳がリラックスして眠りやすくなる。
ところが、【特に女性は、眠っているときも胸式呼吸をしている人が多く、胸式呼吸は交感神経を活発にし、それが眠りを邪魔しているのだ】

 

【腹式呼吸は意識すればでき、それだけでも睡眠はずいぶん変わる】

眠るときの呼吸でもう一つ心がけるべきは「長息」で、息を長く吸い、長く吐く。やろうと思えば誰でもできる。

東洋医学では、不眠には「湧泉」や「失眠」と呼ばれるツボを意識しながら「長息」を行うといいと言われている。「湧泉」は足の指を全て内側に曲げたときに足裏にできる「人」の字の窪んだ部分のことで、「失眠」は足裏のかかとの真ん中あたりを指す。

 

【呼吸に気をつけるだけでも、不眠はだいぶ改善されるのだ】

​​第55回

【眠れないのは、日中、体を動かしていないからである】

 

 日本では、成人の20人に1人が睡眠薬を使っている。中でも定年を迎えて年金暮らしをしているような人に多い。

生物は疲れていれば、どんな状態であれ、どんなストレスを抱えていても絶対に眠れる。逆に疲れていなければ眠れないのだ。

 

 子どもがよく眠るのは、「成長のためによく眠りなさい」と脳が指令を出してメラトニンなどのホルモンバランスを整えているからだと言われるが、単純に、眠くなるほど、昼間に遊んでいるからというのが大きな一因である。

加齢と共に、ホルモンの分泌量は減る。メラトニンの分泌量も減るので、年をとれば睡眠時間が短くなっていくのは必然なのだ。

 それを、若い頃と同じように「7時間眠らなければならない」「朝まで眠らなければいけない」と考えること自体、間違いの元なのである。

 

 特に女性に多いのは、砂糖中毒、炭水化物(糖質)を過剰に摂っていたり、甘いものを食べすぎているため、興奮して寝つけないという人が一番多い。

 

 本を読む。音楽を聴く。ストレッチをする。日記をつける・・・何にせよ、「これをやったら眠くなる」という儀式(ルーティン)をつくることも効果がある。

 

 脳は錯覚しやすいので、寝る前に、こうした行為をすることで「もう寝る時間だ」と催眠をかける。これで眠れるようになったという人が結構いる。

 

 眠れないことを「治すべき症状だ」と思う人と、「当たり前」と思う人では何が違うのだろうか?私は、世界の中の常識や情報を鵜呑みにするか、自分で考えるかの違いだと思う。

 

 前者は、医者や製薬会社が自分たちの都合のために作った「不眠症」という枠にそのままあてはめて、「自分は不眠症という病気だから眠れないんだ。だから薬で治さなければならない」と安易に考えてしまう。

「眠れない」ことを病気のせいにした方が「なぜ、眠れないのか」と根本的な原因を追及するよりも楽だからだろう。それは、換言すれば「病名に頼っている」ことと同じなのだ。そういう人は薬に依存しやすいし、たとえ、減薬・断薬をしよう思い立っても「○○だから仕方ない」とすぐに言い訳をしたがる。

 

 人生の軸や信念を持っていない人は、ちょっとしたことで眠れなくなったり、不安になったり、うつ状態になったりする。

 

 そして軸を持たないから、何かに過度に依存しやすく、睡眠薬も手放せなくなるのだ。

何にも依存をしないという人はいない。程度の差こそあれ、すべからく人間は依存症なのである。薬に依存していなくても、甘いものやお酒、お金、仕事、恋愛、家族・・

 

【ただ、そのことを自覚しているかどうかで大きな差がつく】

 

 睡眠薬を手放せなくなっている人は、その生き方から見直さなければならない。眠れない状態を睡眠薬でコントロールしようという考え方自体を先ずはあらためるべきだ。それは医者の仕事でも、カウンセラーの仕事でもない。

【あなた自身の問題である】

 

第56回ーここからは『うつの8割に薬は無意味』(井原裕・朝日新書・2015年刊)からの抜き書きです。

 

【うつの8割に薬は無意味】という表現は誇張ではない。事実です。精神科医は、皆、知っています。知らない精神科医はいないはずです。又、全ての精神科医は、常識としてこの事実を知っていなければいけません。

 

 なぜなら、それは「最近になって明らかになった新発見」ではなく、古くから知られている常識だからです。

精神科医だけでなく、製薬会社、特に精神科薬剤を担当しているMR(医薬情報担当者)は、皆、よく知っています。それを知った上で「2割もの人に効くのだから」ととらえ、抗うつ薬の販売促進にいそしんでいる。

 

 2008年(平成20年)、厚労省による患者調査によれば、うつ病(躁うつ病も含む)患者は全国で100万人を超えた。

この数値を基に精神科医も製薬会社も「20万人もの患者を救える薬」として抗うつ薬をとらえ、抗うつ薬の不休の努力をいささかも減速させない。

【しかし、一方で80万人の患者が、意味のない薬物治療を受けている。80万人の患者にとっては何も意味もない。服薬に意味があるのは100万人中20万人だけなのだ】

「なぜ、うつの8割に薬は無意味」と言えるのか?

 

 20年近く前、精神科医ファーブルの研究論文によれば、うつ病に対する6週間のプラセボ対照試験(本物の薬と偽薬との比較)を行った結果、抗うつ薬の効果は約60%で、プラセボ効果は40%もあった。

 

 つまり、抗うつ薬で治る人は6割だが、【プラセボでも治る人は4割もいたのである】

しかも2012年にスチュワートが行った研究でもその結果は殆ど変わらなかった。

 

「NNT」というのは、「プラセボ効果ではなく、その薬剤で1人治るためには、何人に投与する必要があるのか」を示す指標だが、先のファーブルの論文では、NNTは「5」となる(先のプラセボ対照試験の結果から、患者の6割に薬が効いたわけではなく、プラセボでも4割も効いているから)

 

 つまり、【5人に抗うつ薬を投与して1人に意味があるだけなのだ】

当然、「そんな効果がない薬をなぜ精神科医は処方するのか?」という素朴な疑問が出てくる。

多くの精神科医は、次のように考えている。

「2割もの人に意味があるのなら出すべきだ」と。

それどころか、「2割もの人が救われるのに、その可能性にかけることなく薬を出さないのは罪だ」とすら言う精神科医もいる。

 

 医薬品というのは、実のところ、かなり打率の低いバッターで、一般にNNTが10以下(10人に1人以下)でも、その薬はかなり有効であるとされている。「打率1割台なら強打者」とされるのが、現在の精神医療界の常識なのだ(続く)

No117

 

「うつ病」の概念はどんどん拡大し、拡散し、その結果、【うつ病の姿は輪郭が不明瞭なもの」になってしまった】

うつ病というものは、重くなればなるほどわかりやすく、治療方針も立てやすい。

 

 重いうつ病(大うつ病)では、口数も減れば、身振り手振りも減り、表情も乏しくなり思考や行動のテンポも遅くなり何もするのも億劫になる。これを「精神運動静止」と呼び、ひどくなると、それこそ口もきけない、トイレにも行けない、靴下も脱げない、何一つ自分で行う気力そのものが失せてしまう。自殺する意欲すらない。自殺に至るのは、「うつから状態が少し改善した時」の方が圧倒的に多い。

 

 問題は、明らかにわかるうつ病ではなく、軽いうつ病やうつ病に至らない「適応障害」や「気分変調症」などのグレーゾーンのうつで、実はこの部分が、いつの間にか膨らんでしまい、「悩める健康人」までもがうつ病と診断されてしまう傾向が顕著なのである。

 

「DSM」は、米精神医学会が作成した「精神障害の診断と統計マニュアル」のことだが、特に影響が大きかったのは「DSMーⅢ」(1980年)と「DSMーⅣ」(1994年)の2つであった(最新は「DSMーⅤ」1994年)。

 

「抑うつ気分など9つの症状のうち、5つい上が2週間以上続く場合は、うつ病である」という操作的診断基準が、これらを通して世界中に広まったのである。

 

 この診断基準(チェックリスト)の症状には、その他に興味や喜びの喪失、体重変化、不眠などの睡眠障害、気力の低下、罪責感、思考や集中力の減退なども含まれる。
                                                              
 しかし、このような「操作主義診断」は一応の取り決めに過ぎず、科学的な根拠があるとは決して言えないのだ。

そもそもの原因を考慮していないので、抑うつ気分にしても、興味や喜びの喪失にしても、仕事のストレスや辛い出来事に起因する【一時的な落ち込みなのか、うつ病の落ち込みなのか判断することはできない】

​​第57回

 1980年代初め頃まで、うつ病は、遺伝や体質が原因とされる内因性のものと、心理的ストレスや精神的な葛藤が原因とされる心因性の「抑うつ状態」に分けて論じられるのが一般的であった。

しかし、1980年代に入り、米国精神医学会は、「DSMーⅢ」の操作主義診断を導入し、「うつ病」と「抑うつ状態」の2つの区別をなくしてしまった。

 

 それと同時に、それ以前まであった「ノイローゼ(神経症)」の概念そのものが消えてしまったのである。

生物学的精神医学、つまり脳の研究をしている人たちが、精神分析を行う心理的な精神医学の人たちを追い出してしまったのです。

 

 今日、「うつ病」とされる人々の大半は、「適応障害」や「気分変調症」などの【グレーゾーンに位置しているのであり】、大うつ病としても、その症状は軽度に止まる「軽度大うつ病」の範疇に過ぎない。

 

 その本質は「悩める健康人」で、医者たちが「チェックリストの該当項目が5つい上、2週間」という診断基準をあてはめさえしなければ「うつ病」とは診断されなかった筈の人々なのである。

 

 臨床現場の混乱はうつ病だけではありません。

双極性障害(躁うつ病)は最たるものですし、自閉症圏もその渦中にあります。

自閉症圏では、例えば、注意欠如多動性障害が「神経発達症群」という曖昧なカテゴリーによって、自閉症圏と同居させられてしまっているのが現状なのである。

 

【発達障害については、病気か個性かの議論すら決着がついていないのだ】

 

 これらの混乱の背景には、「DSM」が疾病概念の膨張をもたらしたことが一番大きい。

 

「精神科医は、一体、どのような授業を受けてきたのだろうか?」

 

 医学部生は、ひたすら病気を学ぶ。彼らの使う教科書には、統合失調症、うつ病、パニック障害、認知症とか、精神科臨床の全分野の病気が網羅され、医学部生は、心の病気のカタログを前に、こういう人は、どの病気に分類されるのか、ただ、そればかりを来る日も来る日も学ぶのである。

 

 そのため、「人を見たら病気と思え」が習い性になってしまう。言わば「職業病」なのだ。

大半の精神科医は、患者が診察室に入ってきたとき、医師の頭の中には「この人は健康かも知れない」という意識は吹き飛び、「どの病気なのか」ということだけが専らの関心事になっている。
     

 健康人の「悩み」に対して、精神科医の多くは、出来ることはたった1つしかない。「薬を出すこと」それだけです。「薬を出すことしか能がない」のです。

 

 悩める健康人が本当に求めていることは、【自分の語る言葉に真摯に耳を傾けてもらい、具体的な助言あり指導なりを受けることで、「薬の自動販売機」なんか求めていません】

 

 本当に必要なのは【精神療法】です。【精神科医がすべきことは、機会的に薬を出すことなんかではなく、言葉のやりとりを通じて、患者の抱える問題を整理し指示と助言を与えることです】

 

 ところが、精神科医の多くは精神療法が出来ません。精神科医の養成システムには致命的な欠陥があって、大学病院には精神療法を教えられる教師がほとんどいません。教授ですら僧です。今日の精神科教授の中で、精神療法を自信を持って語ることの出来る人はきわめて少数なのです。

 

 多くの精神科医は、事実上、「薬物療法」しか学ばないで成長していきます。精神療法は教わったことがないのだから、出来るはずはありません。だから、薬を出すしか能がないのです。

 

 これこそが、薬物療法変調の原因です。「薬漬け」という批判があるのは、至極、当然だと思います。

精神科医の多くは、実際に薬を使う以外の手立てを持っていないのですから。

加えて、そこには、「患者さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」という精神科医の意識も働いている。「患者さんの役に立ちたい」「何とか助けてあげたい」という善意のかたまりの精神科医としては、助けてあげたい一心で薬を出すわけです。

 

「薬漬け問題」が深刻なのは、それが、ほかでもない善意からなされるから、処方する医師の側には「悪いことをしている」という意識は全くないのです。

【薬を出すしか能がないというのは、精神科医の技量としては最低です】およそ精神科医の名に値しません。

 

 しかし、善意というものは、決して技量の不足を補うことは出来ません。それどころか、善意あふれるやぶ医者ほどはた迷惑なものはないのです。

​​第58回

 精神療法は受けられない、薬の効果は出来ないばかりか副作用や離脱症状のリスクもあるー現在の精神医療では、患者からするとどうしても間尺には合いません。

 

 抗うつ薬は、重いうつ病には有効でも、グレーゾーンの軽症のうつ病や適応障害、気分変調症などには、さしたる効果は期待できません。

 

 これが、今日のうつ病をめぐる実情です。

 

【精神科医の多くは精神療法がとても苦手ですから、だから薬を出してごまかそうとする】

悩める健康人が精神科を訪ねると、つまるところ、薬を出されてお茶をにごされることなのだと覚悟をしておいて下さい。

 

 精神科医たちが、この反逆するうつ病者において見いだしたのは、「この人たちは、こんなにも攻撃だったのか?」ということです。

 

 でも、うつ病患者というものは、初めから攻撃性を秘めた人たちでした。古きよき時代の「メランコリー親和型」と呼ばれた人すら、鬱積された忿怒を秘めていました。

 

 それにも関わらず、うつ病において「メランコリー親和型」の名の下に「犬のように従順な人間」を見ようとしてきた精神科医こそが、人間蔑視の誤謬を犯していたのかも知れません。

 

 反逆するうつ病患者を見て、精神科医の中には「飼い犬に手を噛まれた」と思った人もいたかも知れません。

でも、そもそも、この人たちは犬ではありません。【怒りと誇りを持った一個の人間であったのです】

その意味では、うつ病に「反逆することのない従順な人間像」をみようとした精神科医たちは、二重の意味で大いなる誤診をおかしたと言える。

 

 うつ病についての誤診に加え、そもそも人間一般についての誤診である。

人間というものは、表面的にいかに従順に見えても、内面には激しいパッションを秘めているものなのだ。

こんなことは、精神医学以前に太古の昔から知られていた常識のはず。

うっかり者の精神科医ときたら、こんな自明なことすら失念してしまっていたのです。

「うつ病」が、アプセンティズム(さぼり・怠け)に対して弱いのには理由があります。精神科医が患者を自宅療養させる時に、具体的な療養指導を殆ど行わないからです。

 

「うつ病患者を励ましてはいけない」という都市伝説があって、精神科医はうつ病患者に対して「とにかく休め」としか言わず、休み方についての具体的な指導はおろか、復帰に向けた治療計画を提示することを、全く行っていないのが現状です。

 

【激励禁忌の神話】は、自責感情が強く、罪責念慮のどん底にある患者だけに必要ですが、そういう患者の回復期にあっては、背中を押すことをしていかなければなりません。

今まで、精神科医が「うつ病患者を励まさないこと」が、いかに治療の妨げとなっていたかを知らなければなりません。

(本当に病気であるのか非常に疑問ですが)NHKでも取り上げた「新型うつ病」の場合は、「頑張って会社に行きましょう」と言えば良かっただけなのです。

 

 うつ病を口実にした労働忌避が大量に発生することになりましたが、それは患者側にも当然、責任がありますが、1つには性善説を無前提に信じる精神科医のお人好しぶりにも一定の責任があると言える。

精神科医というのは、本来、「人の診立てで、飯を食う」プロの筈ですが、人間は、その本性からして怠惰で、出来ることなら怠けたい、人が見ていなければサボりたい、働かなくて金をもらえるなら、そちらの方がいいといった考えを持つ者なのです。

 

 多くの精神科医たちは、「うつ病患者に限っては、そんな堕落した発想には陥らない」と、うつ病の診立て以前に、人間の本性について途方もない診立て違いをしていたと言える。

ブラック企業で働き、過労からうつ病患者から「病気で今は働けない。そう診断書に書いて欲しい」と訴えられた場合、「就業継続を引き留めねばならない程の重症度に達しているか」をよく診断しながら、心身疲弊の状態であれば、(私は)以下のような診断書を書いている。

 

 先ず、第一弾は比較的穏当な文面で「診断名 適応障害(うつ状態) 前記にて、1~4週間に1回の通院加療を要する。就業継続は不可能ではないが、時間外勤務を控えるなどの配慮が与えられることが望ましい」

 

 その後の通院で、患者の状態が変わらないか、悪化してくると、第二弾の診断書は以下のようにする。

「前回、『時間外勤務を控えるなどの配慮が与えられることが望ましい』と記したが、何ら改善されず、患者の状態は悪化している。事業者に、労働者の健康の保持を考慮して適切な措置を講ずる義務があることは、労働安全衛生法に規定さている・・」

 

 さらに、患者に法廷闘争に備えて「タイムカードとは別に、出社・退社時刻を記録に残すこと。徹底し行うなら、出社・退社の度に携帯電話で写真を撮り、奥様にメールで送ってもいい」という指導を行っている。

​​第59回

 厚労省の患者調査によれば、「うつ病・躁うつ病」の総患者数は、43万3千人(1996年)、44万1千人(1999年)だったのが、71万1千人(2002年)、92万4千人(2005年)、104万1千人(2008年)と推移した。【わずか9年間で、実に2.4倍に膨張したのである】

 

 うつ病の人は、なぜ、1999年を境に大量発生したのか?

 

 製薬会社によるうつ病の啓発キャンペーンがその一因なのだ。

1999年に、日本で初めて抗うつ薬SSRIが、認可されたのを機に、その販売促進のために積極的にうつ病の啓発キャンペーンが行われた。

1999年に認可されたルボックス、デプロメール、2000年のパキシル、2006年のジェイゾロフト、2011年のレクサプロなど。

特に2000年頃から使われた「うつは心の風邪」というフレーズは流行語になるほどであった。

 

「疾患喧伝」とは、薬剤の販売促進を意図した「病気の宣伝」のことをいう。

製薬会社が疾患喧伝を行う際、対象となる疾患には以下のような共通点がある。

 

1.  正常と異常の境界領域を狙うこと。実はそこに巨大な市場が隠されている。
2. 致死的でもなければ、緊急性もないものを狙う。製薬会社からみて理想の患者とは、すぐには死なないで、しかし、治るわけでもなく、薬を飲みつつづけてくれるようなタイプ。
3. 何万人に1人しかいないような希少疾患ではなく、日本人の数人に1人がかかるような、ごく普通の疾患である必要がある。
4. 投薬期間が長期にわたる疾患が望ましい。治るのに数ヶ月、数年かかり、その上、再発防止を名目に長く、望むらくは一生、薬を飲み続けて頂くことが理想。

 

 SSRIの販売促進は、法的な制約があり、医薬品そのものの宣伝には厳しい規制がかけられていたので、薬の代わりに病気の宣伝をし、人々を不安な気持ちにさせて、薬を出してくれる病院へ送り出そうとしたのだ。

総患者数が短期間で2.4倍という数字は、「うつ病」という同一疾患の同一重症度の患者が急に増えたというわけではなく、「埋もれた需要を掘り起こす」ことに成功したマーケティングの勝利であった。

 

 抗うつ薬市場は、1998年の、約170億円から、2007年には1千億円を超えたのである。

 富高辰一郎氏が著した『なぜうつ病の人が増えたのか』(幻冬舎・2010年刊)は、発売直後から、一大センセ-ションを巻き起こした一方、専門家側からは批判に晒された。

 

 その批判というのは「世論を相手に是非を問う前に、専門家の間で議論すべきだったのでないか」というものであったが、富高氏は次のように反論をした。

 

「専門家は業界の中にいるので、業界の利益に関わる問題を議論するのは難しいのかも知れません」と。

以後、「疾患喧伝」に関しては。精神科医たちは敏感になっていった。

 

 医者というものは、大体において製薬会社にいいように振り回されているようなものですが、その中でも、およそ【精神科医ぐらい疾患喧伝にもろい人種はいないのです】

 

 私ども精神科医は、これまで製薬会社による情報操作に、いとも簡単に踊らされてきました。

 

 製薬会社の医薬情報担当者(MR)は、巧みな営業トークによって、いつの間にか精神医学の「客員教授」のごとき地位を得ているのです。

 精神科医たちは、気がつけば製薬会社に教えて頂くような立場になり下がり、まるで、教授の指導に従う研修医のように、MRの超えに耳を傾け、薬剤のパンフレットを精神医学の教科書と見な
、すようになってしまいました。

 

 MRは、かつては「プロパー」と呼ばれ、彼らが第一に意識しているのは、一人一人の患者の健康ではなく、売り上げを示す折れ線グラフなのです。

 

 いかにして、医師たちの行動を変えさせるか、それが彼らの腕の見せ所で、実は、MRにとって、いかなる診療科医師においても、もっとも御しやすく最も愛すべき「プードル」のような存在が精神科医なのかも知れません。

「MR」は、「公然の秘密」ともいうべき診断に基づいて行動をしている。それは、医者というものは、ベル音刺激でよだれを垂らす【パブロフの犬のような存在である】ということである。

 

 だから、講演会を数多く開いては有名教授を招いて、薬剤の効果を高唱させるとき、必ず食事(食餌といった方が適切であろう)を用意する。一流料理店から豪華な弁当を取り寄せたり、講演会後にホテルの広間で立食パーティを開くのである。

 つまり、薬剤についての情報を記憶に定着させる時に、同時に胃袋に対して「美味しい食餌」を強化刺激として与えるのだ。

 

 こうして、医者たちを脳と胃の両方から「餌付け」してしまえば、「よだれを垂らす犬」のように、何も考えずにその薬を使ってくれるわけなのです。

(現在、国会で問題となっている総務省とNTT・東北新社の食事会の疑惑と全く同じ仕組みになっていることを想起してみて下さい)

​​第60回

 この「条件付け作戦」が大成功し、何の効果もない薬剤を精神科医たちが大量に処方した事件が1990年代に発生した。

アバン、エレン、セレポート、ドラガノンなど数々の「脳循環・代謝改善薬」が売り出されたが、製薬会社は美しいパンフレットを何種類も作っては「効くぞ、効くぞ」と精神科医たちに吹き込み、有名医師たちをそそのかしては「痴呆(当時)の予防・改善効果」をうたいあげる論文を書かせて、日本中にばらまいた。喧伝は成功し、日本中の精神科医たちは、一度はこれらを熱心に使ったのである。

 

 ところが、ほどなく、これらは再評価の対象となり「有用性なし」との結論で一瞬にして市場から姿を消してしまった。

自らの目で効果を確認する能力がなく、製薬会社の暗示に翻弄されてきた精神科医たちは。狐につままれたように、ただ立ちすくむだけだったのである。

 

 精神科医たちは、この「脳循環・代謝改善薬の失敗」から何かを学べるはずでした。

【製薬会社の情報には、それを素直に受け止めてはならない危険なものもあるのです】

【処方の最終責任は医師にあり、そうである以上、製薬会社からの情報をもっと健全な疑いの目を持って見なければならなかったのだ】

 

 朝日新聞(1998年4月18日付朝刊)によれば、これらの「脳循環・代謝改善薬」は年間、1300億円程度の市場規模を持っていた。

 

 これだけの医療費が、効果のない薬剤に費やされてしまったことはスキャンダルであった。

このような事態を招いたのは、紛れもなく精神科医の責任であるにもかかわらず、事後のさしたる検証は行われず、精神科医は、この失敗から何かを万部ことはついになかった。

 

 1998年、厚労省によって、これらの薬剤の承認は取り消された。

そして、それからわずか1年後に新型抗うつ薬である「SSRI」の販売が開始され、同時にうつ病や躁うつ病の総患者数が突如として急激な上昇を始めたのである。

 

 「SSRI」の販売促進活動は、善意の時とは比較にならない壮大なスケールで展開された。

 

 条件反射でよだれを垂らした犬のように、精神科医たちは「うつ」と聞けば、直ちに「SSRI」を処方するよう条件付けされてしまったのである。

 新型抗うつ薬SSRIは、1980年代の終わり頃から欧米で使われ始め90年代に入ると一大ファッションと化した。

1988年、世界初のSSRI製剤として米国で発売されたプロザック(発売元イーライリリー社)は「人生を前向きにしてくれるハッピードラッグ」とも言われた。

 

 欧米でのSSRIブームを、日本の大手メデアで最初に大きく伝えたのはNHKであった。NHKは最近では、例えば2012年6月13日放映の「クローズアップ現代 薬漬けになりたくないー向精神薬をのむ子ども」などに見るように、向精神薬批判の番組を連続的に放映しているが、最初はむしろ向精神薬ブームを好意的に報じていました。

 

 1996年12月「NHKスペシャル 脳内薬品が心を操る」は、冒頭、次のようなナレーションで始まる。

「1つのカプセルが、人格を変えていきます。脳に直接働きかける薬。脳内薬品とも言うべきこの薬は、副作用も殆どなく飲むと全く新しい自分に生まれ変われると人々は言います」

そして、画面に薬剤の名前がはっきりと映し出されます。

 

【PROZAC 20mg】

 

 NHKとしては、本邦におけるSSRIは販売開始に先立っていち早くその効果を歌い上げたつもりだったのだろう。その後のNHKのSSRI批判、向精神薬過剰処方問題を思えば、】この番組は勇み足で決して正確な情報ではなかったのである。

 

 結果として、NHKという日本一影響力の大きいTV局の、それも看板番組の中でSSRIの効果が喧伝された影響は大きかった。プロザックは、日本では未承認ですが、視聴者の中には「早くあの薬が日本でも使えるようになればいいのに」と思った人が少なからずいたい違いない。実際、プロザックを個人輸入する人もいたのである。

 

 日本にSSRIが登場する直前の90年代後半(SSRI普及後、10年ほど経っていた)当時、既に「SSRIは効果が喧伝されるわりには効かない。効くという定説は、実は『パブリケーション・バイアス(公表バイアス)』によるのではないか」という懐疑論がささやかれていたのである。

​​第61回

 薬剤についての情報が歪曲されるケースには2種類ある。

1つは有効データは公開されるのに、無効データは公開されないため、薬のメリットが過大評価されてしまう場合。もう1つは、副作用データを隠蔽して薬のデメリットを過小評価させる場合。

 

 難しいのは、むしろ前者で「パブリケーション・バイアス」はこれに該当する。これは、意図的な情報隠蔽とは言えず、誰一人積極的には情報を操作していない。犯人のいない犯罪くらい解明が難しいものはない。

事実そのものよりも「面白さ」が最優先されるジャーナリズムの仕組みが、結果としてこのような情報の歪曲を招いているのだ。

 

 2008年1月、オレゴン保健科学大学のE・H・ターナーが以下のようなデータを発表した。

「米国の食品医薬品局(FDA)に、1987年~2004年の間に登録された74の抗うつ薬臨床試験のうち、31%にあたる23試験については公表されていませんでしたが、それらは殆どが、抗うつ薬の効果が説明しきれなかったものである。一方、抗うつ薬の効果が証明できたものは38試験で、そのうち1試験を除く37試験だけ公表されたのである」。

つまり、【抗うつ薬効果が証明できれば論文になる。出来なければ論文にならない】

からくりはこういうことだった。

 

 SSRIとプラセボ(偽薬)を比較したメタ解析が、2008年と2010年に発表された。これらは、FDAに眠っていた治験データを、米公開記録を含めて分析し治したものだが、結果は【軽傷及び中等症のうつ病では、SSRIとプラセボの有効性に有意差は認められず、最重症でのみ、わずかに有意さ認められた】

【つまり、うつ病の患者の大半を占める軽症・中等症うつ病ではSSRIの効果は小麦粉(偽薬)と大差がなかったのである】

 

 又、2008年、英国ハル大学アーヴィング・カーシュらが、アメリカの情報公開法に基づき、FDAにプロザック、パキシルなど4種類のSSRIに関する公開分も含む膨大な量の臨床試験データを請求し解析した結果、「SSRIの薬効は偽薬効果と殆ど差はなく、あるとすれば、それは最重症例だけだが、それすらも懐疑的である」と発表した。

 

 なぜ、懐疑的なのか?カーシュは、続けて以下のように述べている。

「なぜなら、臨床試験の被験者たちは、臨床試験慣れしており、自分に与えられた薬剤がSSRIか偽薬を、服用後、特に副作用の感じで見抜いてしまうからなのだ。プラセボとわかれば症状改善への期待はしぼみ、逆に実薬とわかれば症状改善への期待が膨らむ・・・
 

 投与されたのは、SSRIと見破ることで生じる症状改善への期待、つまり、増幅されたプラセボ効果であろう」

これを受けて、カナダCBC放送は、定時のニュース番組で「抗うつ薬はプラセボより優れているわけではない」と指摘。又、英国BBC放送は、SSRIの過剰処方を批判して、それに変わるべき【精神療法】の重要性を述べた上で、「だが、十分なセラピストがいない」と課題を報じていた。

 新型抗うつ薬「SSRI」に対する欧米精神医学の見方は、今や冷めてしまったものなってしまっている。世界中の学会が軽度うつ病に対して抗うつ薬を第一選択から外しているのだ。

2012年、「日本うつ病学会」も、うつの大半を占める「軽度うつ病」については、「プラセボ(偽薬)に対し、確実に有効性を示し得る治療薬は、殆ど存在しない」と宣言をした。一応、こうして「抗うつ薬礼賛の時代」は終わりを告げた感がある。

【SSRIに副作用があることは、初めからわかっていた】

 

 この薬剤が、下痢や吐き気などの消化器症状をかなりの頻度で起こすことは知られているが、脳内セロトニン濃度を上げるため、それが行きすぎると体温上昇、血圧上昇、心拍数増加などの【自律神経症状】や、震え筋肉の急速な収縮などの【神経症状】を呈することがあり、これらは一括して【セロトニン症候群】と呼ばれている。

 

 その他にも、不安、焦燥感、パニック発作、不眠、易刺激性(些細なことで感情を爆発させる)、敵意、衝動性、アカシジア(じっとしていられない。私自身、一気に断薬してから9ヶ月後に現れた)、軽装状態、躁状態などの【アクティべーション症候群】(賦活化症候群)と呼ばれる状態を呈する場合もあり、これは場合によっては、自傷、自殺、他害などに及ぶことがあり、特に注意しなければならない副作用である。

 

(SSRIを飲んで起こる副作用の、不安や焦燥感を抑えるために、抗不安薬や気分安定薬などが処方され、さらに、副作用の不眠に関しても睡眠薬を処方されて、ますます向精神薬の種類と量が増やされ、状態は良くならないどころか、ますます悪化の一途を辿る)

 

 「SSRI」に、これらの副作用があることは、製薬会社は当初から把握し、初めからある程度は公開していた。

しかし、その「情報開示は十分であったとは決して言えないのだ」。

残念ながら、【意図的な隠蔽工作がおこなわれていたのだ】

 

 

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