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            精神医療を考える(Ⅸ)

第122回

 長い通勤時間、高速化した業務サイクル、24時間届くメール、こういった人を寝かしつけることのない不夜城の都市生活を考慮に入れなければ、患者さんのことは理解できません。

 

 ストレス社会に生きる都市のビジネスパーソンたちこそ、2000年代に大流行した病禍の犠牲者なのです。

私は、このような人たちを便宜的に「都市型うつ」と呼んでいます。それは、以下のような治療実践上の理由によります。

 

第一に、抗うつ薬を使うことにほとんど意味がないということ。
第二に、この人たちの「うつ」の背後には、都市生活特有のライフスタイルの問題があるということ。

第一は、第二の直接の帰結です。

 

 つまり、社会人のライフスタイルの問題にメスを入れることなくしては、治りようがない。その問題に目をつぶって「薬を使えば治るだろう」と分でかかっても無駄だということです。

 

 私の外来には、霞が関の官僚、大手町の銀行マン、兜町の証券レディ、六本木のIT会社社長、政治家、大学教授、それどころか医師、それも精神科医などが訪れます。

 

 率直に申し上げて、現在の薬中心の精神医学には、皆さんのような知的な人の「うつ」を治すだけの力がありません。それは、精神科医の知的水準が皆さん方と比べて極端に低いという訳ではなく、むしろ、もっと根源的な問題、精神医学という学問自体のよって立つ前提の問題なのです。

 精神医学のよって立つ前提は「精神医学は医学の一分野である。医学は身体についての科学である。ゆえに精神医学は脳についての科学である」というものです。

 

 だからこそ、精神医学の権威者とされる人ほど、脳に異常な執着を示します。

私は、精神科医仲間の間では、自分のことを「半精神医学」などと呼んでいます。

 

 つまり、「反精神医学」として精神医学の全てを否定するつもりはない。

しかし、精神医学の中には、明らかに「無茶な論理」と思われるものもあるので、例え、学会の権威者の意見といえども、むしろ、それゆえにこそ、眉に唾をつけて受け止めておかなければいけないと思うのです。

「片足は世間的常識の側に、もう片足だけは精神医学の側に」そういうスタンスをとっています。

 

 この「半精神医学」の立場から見てみれば、「都市型うつ」を「脳の病気」とみなしても、得るところはありません。

なぜならば、「脳が悪くなっている」わけではないからです。

 

 患者さんは皆、インテリばかり。だから、【都市のインテリ層のライフスタイル自体を、治療の対象としなければいけない】

 

 【薬だけ飲んでいれば治るなんて、あり得ないのです】

 

第123回

 脳に働きかけるだけでは足りません。病気ではなく人間を診る。症状ではなく生活を診る。そういった都会に生きる人の人生全体を正面から見つめていかないと治りません。

もっとも、都市は矛盾に満ち溢れています。最初は人々に様々な可能性を見せてくれます。

「こんなことも出来る」「あんな夢も実現する」こう言って甘言を繰り返し、実際にひとがそれに近づこうとすると、途端に冷たい表情をして視線をそらす。

 

 限りなく無意味な繰り返しに見える都会の日常の中に、何を見いだし、何を目指していくか。

無数の人間の織りなす巨大な構造の中で、小さな一人の人間は毎日、戦っている。疎外感、匿名性、孤独・・・・しかし、そこから逃避することは解決になりません。

 

「住みたくてこの町にいるわけではないが、簡単にこの町を捨てることもできない」

多かれ少なかれ、都会人たちは、そう思っていることでしょう。

人を決して落ち着かせることのない、この町で、依然として人々はこころの安らぎを求めないではいられないのです。

 

「都市型うつ」の患者さんは、皆、矛盾だらけのこの町に生きています。

一人ひとりの人生を見つめること、雑踏の中の姿を見失わないこと、喧噪の中の声を聴き逃さないこと、それが私の考える都市型精神科医の道なのです。

「都市型うつ」は、心身の疲弊、その多くが生活習慣の破綻から発生します。

都市という名のジャングルで、どうサバイバルしていくか、それこそが都会人の課題です。

 

 ストレスはなくならない。とすると、ストレス応答力を高める以外に生き延びる方法はありません。

そして、そのためには、ストレス応答系をメンテナンスする時間=「睡眠」を十分、とらなければなりません。睡眠時間を十分、確保することなくしては、この都会では生きていけないのです。

 

 体調管理は、都会人にとって不可欠のビジネススキルであり、それもかなりの部分、個人の責任に帰せられる課題なのです。

ヒトを含む全ての生物のリズムは、地球の24時間周期と同期して動くように出来ています。

進化の過程で、生物は地球の環境に適応するように24時間で1回転する周期を作ってきたと言えます。

 

 ところが20Cに入って、日本人の夜更かし傾向は急激に強まっています。

国立精神・神経医療研究センターの「何時になったら90%の人が眠っていたか」という調査結果は以下の通りです。

 

 1941年の日本では、午後10時50分、1970年には午前0時、2000年には1時になってから、という結果になりました。

特に、1970年以降は、就眠時刻だけ遅くなり、起床時間に変化がない。つまり、日本人の睡眠は時代と共に短くなっているのです。

 

第124回

 「都市型うつ」とは、都市化がもたらしたうつであり、その原因は睡眠時間の短さ、そしてそれを招いた通気時間の長さにあることは、想像に難くありません。

 通勤時間については、日本リージャス株式会社が世界100ヵ国の2万人以上の経営幹部から回答を得ています。

同社の2014年の報告によれば、片道通勤時間の世界平均が、32分30秒であるのに対して、日本では39分6秒、往復で1時間20分の時間を通勤に費やしており。2014年では、さらに片道通勤時間が、さらに9分6秒も増加しているとのこと。

 

 厚労省は、2000年に「日本人の5人に1人が、睡眠に問題を抱えている」と発表しています。

又、総務省の調査によれば(2011年)、最も睡眠時間が短いのは神奈川県で(以下、奈良、兵庫、千葉、埼玉)、逆に最も睡眠時間が長いのは、秋田県(以下、青森、高知、山形、福島)と続きます。

 

 OECDの調査では、日本の睡眠時間は、18ヵ国中、韓国に次いで低く、最も長いフランスとは1時間の差がありました。

「寝る子は育つ」、かつてはそんなふうに眠りを奨励する風潮もこの国にはあったはずですが、「惰眠をむさぼる」という言葉があるくらいで、日本人はとかく「睡眠」を「怠惰」の同義語として位置づけがちです。

 

 又、「寝食を忘れる」という言葉もありますが、本当に寝食を忘れたら、脳にブドウ糖が行き渡らなくなって思考が停止したはずです。

バブル期に短時間睡眠を賞賛する滋養強壮剤のフレーズ「24時間戦えますか」というのもありましたが、このドリンク剤で24時間眠らないでいられる訳ではなく、今なら日本広告審査機構に苦情が寄せられても不思議ではありません。

 

 ともあれ、「できる奴」と「できない奴」はどう違うのか?

それは、「できる奴」は無駄を省いて目覚めている時間を最大限使っている。一方、「できない奴」は、無駄を省く代わりに睡眠時間を省いて、その結果、ぼんやりしている時間ばかりを無駄に増やしている。

 

「俺は寝ないで頑張っている」という自己満足だけを得て、実際に仕事をしている時間は短いのです。

例えば、堀江貴文氏。起業した頃、8時間眠って16時間、仕事をしたそうです。

「3時間しか眠らなかった」と言われるナポレオンですが、彼の側近が表した回顧録によれば、1日6~8時間は寝ていて、会議や馬上でもよき眠りをしていたのです。

 

 月曜日の朝の「憂うつ」。俗に「ブルーマンディ」。

今や日本に限らず、全世界的にいわれるこの現象は、「睡眠相」(何時に寝て、何時に起きるか)のズレによる【時差ボケ】が原因なのです。

 

 例えば、平日、朝6時に起きている人がいたとします。その人が、日曜日は、9時半まで寝ていると、翌日の月曜日は、朝9時半まで体は眠っていたくなるものです。その差3.5時間。それはインドと日本の時差に相当します。

 

 つまり、この人の場合、月曜日は、インドから成田まで飛行機で出勤するようなものです。

異様な倦怠感と意欲の低下、さらに、頭痛やふらつきすら自覚しても仕方がないことなのです。

せめて、平日と日曜日の起床時間の差を長くても2時間(平日6時起床の人は8時に起きる)に抑えて頂きたい。それは丁度、タイとの時差に相当します。

そうすると、いつのもの月曜日の朝の「憂うつ」は、軽減されます。

​​第125回

 厚労省が「生活習慣病」という概念を使い始めたのは1996年のことです。

「生活習慣病」概念の確立には、ベロック&ブレスロウが、1972年に発表した「健康状態と健康習慣の問題」という論文が大きく預かっています。

 

 そこで取り上げられた健康習慣が、その後の生活習慣病療養指導の基本項目となりました。

「適正な睡眠時間、禁煙、適正体重、飲酒量の適正化、定期的な運動、毎日の朝食節酒、間食の制限」などです。
 

 ただ意外なことに、日本の行政府は、生活習慣病の概念を導入する時に、「適正な睡眠時間」だけは、除外しました。未だにその理由はわかりません。

 

 しかし、その後、今日に至るまで、厚労省は、【健康習慣として睡眠を取り上げたことはほとんどないし、生活習慣病として精神障害とりあげたことも一度もありません】

 

 このことは、「都市型うつ」の療養指導が、他の慢性疾患に大きく後れをとる元凶となりました。

 

 その後、行政は「メタボリック・シンドローム」なる聞き慣れないカタカナ語を発見し、この依然異論の多い症候群を流行病に仕立て上げました。

 

 診断基準も不完全で、基準値も根拠も曖昧なこの概念のために、行政は膨大な対策費を傾注し、国民は一斉に腹囲を測り始めたわけです。

【一方で、国は睡眠には一切触れず、国民の睡眠軽視の傾向に、行政として警鐘を鳴らすことをしませんでした。

私は、それが結果としてうつ病が増加し、自殺が1998年以降、15年連続、毎年3万人を超えることになる一因を作ったと考えています】

 飲酒は、こと睡眠から見ると健康的な習慣とはいえません。

「よく眠れないからお酒を飲む。飲まないと眠れない」と言う人がいますが、その場合、私はこう言います。

「飲んで寝るのは、眠っているというより気絶しているようなものです」

 

 飲み過ぎた翌日、前夜の記憶がないことがあります。それは、飲酒による一時的な記憶障害、医学的には「急性アルコール中毒による意識障害」と診断されます。要するに酒を飲んで気絶していたわけです。

 

 睡眠は、脳波では第一段階から第四段階があり、さらにその先にレム睡眠、つまり夢を見ている段階が来ます。

その中でも、第三、第四段階の比率が、睡眠の質に大きな影響を与えます。

 

 アルコールは、これら第三、第四段階を大きく損ないます。

結果として浅い睡眠ばかり多くなってしまい、睡眠の本来になっているメンテナンス効果が損なわれてしまうのです。

深い睡眠には、自律神経、ホルモンを介して、血圧を下げ糖尿病リスクを下げるといった作用があります。

 

 深い睡眠が減ると、糖尿病や高血圧のリスクが高くなるというデータが出ています。

又、酒が切れた頃に突然、覚醒してしまい、その後、一睡もできないまま、朝を迎えるということがあります。酒の血中濃度が低下した結果、かえって眠れない状態ができてしまったわけです。

 

 お酒は睡眠にとって、味方ではなく、むしろ敵だということを知るべきです。

 

第126回

 実は今日、汎用されているベンゾジアゼピン系睡眠薬というものは、おしなべて睡眠の第3、第4段階を減らします。浅い睡眠ばかりを増やすことになります。

 

 つまり、アルコールが睡眠の質を損ねたのと同じことなのです。

「日本睡眠学会」などの専門家たちは、睡眠薬は1種類に限るべきとしています。

睡眠薬は、飲めば飲むほど、深く眠れるというわけではなく、むしろ、自然な睡眠が損なわれ、人工的な睡眠ばかりが増えることになります。

 

 ベンゾジアゼピン系薬剤の依存の程度は、ヘロインやコカインに比べれば低いが、アルコールやタバコと同程度で、マリファナやLSDよりも強いとされています。

 

 日本で「ロヒプノール」や「サイレース」という商品名で知られるプルニトラセパムという薬剤は、アメリカでは規制物質法で厳しく使用を制限されており、麻薬並みの扱いなのです。

 

 さらに、ベンゾジアゼピン系薬剤は、やめることが極めて難しい薬です。

急にやめると、身体が薬がない状態に驚いて、あれやこれやの症状を出してきます。いらいら、不安、緊張、パニック、震え、冷や汗、吐き気、むかつき、動悸、頭痛、そして人によっては幻覚も。

 

 こういう不快な症状を避けるために、つい迎え酒を飲むように薬剤を飲んでしまい、いつまでたってもやめられない状態が続くわけです。

 都会人たちは、スイッチを切るように眠り、スイッチをつけるように目覚めたがります。

その結果、眠るのに睡眠薬の力を借り、朝、元気を出すのに栄養ドリンク剤の力を借りようとします。

しかし、ドリンク剤の源流をさかのぼれば、「航空戦略補強液」につながると聞けば誰しも驚くことでしょう。

「航空戦略補強液」とは、出撃していく航空兵のために作られたもので、中身はビタミンB群、糖みつ、クエン酸、それに覚せい剤などです。

 

 覚せい剤まで飲ませれば、疲労に対する感覚も恐怖感すらも麻痺しますから、疲れ知らずに飛び続け、挙げ句の果てに特攻として敵艦に突っ込むこともできます。

現在、市販されているドリンク剤には、覚せい剤は含まれていません。しかし、その他の成分は「航空戦略補強液」とほとんど変わらないのです。

 

 疲労も度が過ぎれば、現状を疑う思考力が失われますから、意思のない操り人形のように働き続けることになります。

そもそも、日本のドラック文化が、麻薬中心ではなく、覚せい剤であるというのも、日本人のメンタリティを象徴しているのかも知れません。麻薬でトロッとするより、覚せい剤でギンギラギンになりたいわけです。

 

 この国では、ドラック文化にすら、勤勉な国民性が反映されているのかも知れません。

 

第127回

 

 ヒトは昼行性の動物です。進化の過程で、明るい光を感じれば活動を開始しようとし、暗くなれば休もうとするようにプログラムされてきました。

 

 朝、なかなか身体のエンジンがかからないとお思いの人は、朝、目覚めたときにカーテンを開けて光を十分感じるといいと思います。そうすれば、光によって脳の司令塔が活動の号令を出します。

 

 エジソンが電球を発明して以来、人工照明の影響で、自然の明るさの状態に比べ、私どもの身体は、わずか20分の1の明るさの中で朝を迎え、夜ともなれば、100倍もの明るさの中で数時間を過ごしてから眠ることになります。

 

 明るい朝と暗い夜になじんできたはずの体は、今では明るすぎる朝を迎え、明るすぎる夜を過ごすことになっています。

 

 最も古い人類である猿人類は、元々、夜行性で、臭覚によって昆虫や果実を探すしかありませんでしたが、進化の過程で昼行性に変わり、大きな果実や葉っぱも食べるようになりました。植物性繊維を摂るようになると、これまでと違って消化のために少々長い時間がかかります。

 

 こうして、昼間働いて食物を摂取し、夜、眠って食物繊維を消化するというサイクルが確立しました。

日の出と共に目覚め、日の入りと共に、月と星の下で眠ったあの生活こそが、私たちの自然な姿であるのです。

「都市型うつ」という言葉は、精神医学の病名ではなく、私が臨床診療の時に便宜的に使っている呼称に過ぎません。

では、この「都市型うつ」にならないための予防法を以下、紹介していきます。

 

 ①「週50時間睡眠」を心がける。

 

 生活習慣病と睡眠時間との関係については、糖尿病やメタボリックの発症リスク、抑うつ傾向から死亡率に至るまで、おしなべて【睡眠時間7~8時間が最も低く、それよりも長くても、短くてもリスクが上がることが確かめられています】

つまり【睡眠時間は長すぎても、短すぎてもよくないのです】

 

 しかし、毎日のノルマとすると、忙しい都会人には難しいでしょう。もちろん、23時に就床して、6時に起床するような規則的な生活が送れれば理想ですが、実際にはなかなか難しいと思います。そこで、少し妥協して【週50時間睡眠】としましょう。

 

 そして、昨夜、眠れなかったら、今夜はしっかり眠る。今夜も眠れなければ、明日こそ長く眠る。そんな感じで睡眠のバランス収支を2、3日でとるようにします。最悪でも、7日間で収支バランスを合わせることにしてみましょう。

第128回

「都市型うつ」の予防法 ② 【3日に1度、睡眠負債を返す】

 

 休日の睡眠時間と平日の睡眠時間の差を「睡眠負債」といい、それが大きい程、平日の睡眠不足が大きく、週末に挽回すべき寝不足の借金が多いことになります。

「睡眠負債」は小さい程よく、特に年齢と共に小さくしていくべきです。

 

 その負債を、休日の長時間睡眠で挽回する能力は、年齢と共に低下していきます。

年齢と共に「無理」がきかなくなると言われますが、その場合の「無理」とは、睡眠負債を1、2日で一気に挽回する力のことです。

 

 睡眠時間は貯金できませんが、返済することはできます。平日から十分な睡眠をとり、週の後半に寝不足の借金を抱え込まないことです。若い世代は、多少の「睡眠負債」を作るのは仕方ないかも知れません。

 

 しかし、その場合、週の中程に早めに帰宅、早め就床日をもうけて、週の前半に溜め込んだ「睡眠負債」をいったん返済するといいでしょう。週末に1週間分の負債を返済するのではなく、週の半ばに返済する、いわば分割払いにするのです。

「都市型うつ」の予防法 Ⅲ 【定時起床、就床は早めに】

 

「週50時間睡眠」をノルマとした場合、課題はいかにして平日に発生してしまう「睡眠負債」を返済するかでしょう。

1週間の予定をよく見れば、1日や2日は仕事量が少ない日があるはずです。

 

 そんな日を狙って、睡眠時間の挽回を試みるのです。その時、大切なことは「早め就床」を心がけることです。

 

【「睡眠相」の遅れには、メンタルの不調をもたらすリスク要因が隠れています】

 

 平日6時に起床している人が、休日は11時まで眠っていたとすると、5時間の時差が体内に生じます。つまり、週末は、身体がアラブ首長国連邦の現地時間になり、日曜日にはアブダビから出勤する漢字になるのです。

これは、体に大きな負担をかけます。らくだの背中に乗って、のんびり出勤できるのなら、まだ、いいかもしれませんが、実際には満員電車の乗り込まなければなりません。

 

【身体のリズムは起床時刻によってリセットされます。そのため、週末に起床時刻を大きくずらすと、月曜日の朝に、辛い結果が待っています。

 

 そして、重要なことは、休日の朝寝坊は、平日の時刻+2時間程度にとどめることです。

この起床時刻の時差が2時間くらいならば、さほど体はダメージを受けないで済むのです。

 

第129回

「都市型うつ」の予防法 Ⅳ 【30分のハーフタイムをとる】

 

「昼寝は悪いか?」ー結論から言えば「午後3事前後の昼寝は悪くない」となりそうです。

 

 スペインのシェスタはよく知られています。昼下がりともなれば、店も会社も閉めます。皆、室内にこもって国中で昼寝をしています。

なぜ、日差しの強い国に限って、午後、外出を控えて昼寝する文化が定着したのか。

そういえば、紫外線は細胞分裂にとって有害です。

もしかすると、昼寝は生物進化の上で合理的な適応方略なのかも知れません。

 

 日本の緯度は、実はとても低くG8の中で、東京より南に首都を持つ国はありません。ですから、日本人は高緯度の欧米主要国よりも、むしろ南欧の文化をこそ参考にすべきかも知れません。

そもそも、日本では、古くから主に職人たちの間で、昼寝をする習慣がありました。

人間の身体は覚醒している時間の中央に心身の活性が低下する時間帯があります。

例えば、23時就床、6時起床のリズムで毎日生活している人にとっては、起床して8~9時間後、つまり、午後2~3時頃です。

この時間帯は、注意力を維持することが難しく、交通事故の頻度も高まります。

 

 そこで、いわば「ハーフタイム」をこの時間にとって仮眠することは生理学的に理にかなっています。コツは時間を15分~30分程度の留めること。30分を過ぎ、眠りが深まってしまうと目覚めたときに、かえって頭がぼんやりしてしまいます。

「都市型うつ」予防法 Ⅵ 【アルコールのコントロール】

 

 アルコールの許容量については個人差があります。個人差はどうであれ、自分の許容量を知っておくこと、毎日、飲む量を自分なりにコントロールしておくことはとても大切です。

毎日、飲んでいる人なら1日おきにする。1日3合程度飲む人は2合にとどめ、2合飲む人なら1合にとどめる。

それでも倦怠感、頭痛などの不快な症状が抜けない場合、いったんは完全に断酒すべきでしょう。

 

 仕事の重要性を考慮して、前日の酒量を調整することもプロフェッショナルなら必要です。

プロの仕事人には「勝負に出る」日があります。

こういう時は、その日のために体調管理を何よりも優先するべきです。

 

 極論すれば、酒など引退してからいくらでも飲めるわけですから、プロの仕事人としての真剣勝負に全力を注ぐことをこそ優先すべきでしょう。

​​第130回

「都市型うつ」の予防法 Ⅵ「万歩計で歩数チェック」

 

 人は基本的に7時間睡眠、17時間活動のサイクルを続けます。

この2つのサインカーブは、周期が24時間。しかし、振幅は人によってまちまちです。ただ、年齢によって振幅は減衰してゆく(小さくなる)ものと考えるべきです。

 若い頃はガンガン働き、疲れ切ってぐっすり眠っていました。だから活動による疲労蓄積と睡眠による疲労回復とが大きな振幅をなしていました。

 

 逆に、病床にある高齢者で、今や人生最後の旅に立とうという人の場合、昼間も臥床がちでウトウトし、夜も眠れずにトイレに何度も起きるなどして、日中の活動も少なく夜間の眠りも浅くなっています。

振幅を小さくしないためには、7時間の睡眠の振幅を深くするのではなく、17時間の活動の方の振幅の方を深くすることが必要です。

 

 7時間の良好な睡眠とは、17時間の活動がもたらす「ご褒美」のようなものです。活動の結果、得られる適度の疲労こそが、その後の睡眠の質を高めます。

 

【活動なくして睡眠なし】【疲れなくして睡眠なし】

 

【必要なのは肉体疲労です。精神疲労ではありません】

 

 精神的に疲れている人に、さらに「肉体を疲れさせよ」などと追い打ちをかけると「なんと残酷な」とお思いかも知れません。

 

 しかし、【精神が疲れているからこそ、良好な睡眠が必要で、そのためには適度な肉体疲労が必要です。それなくしては精神の疲労は解消されません】

 

 私どもの身体は300万年前の、猿人ルーシー以来、進化の過程を経て、直立歩行に適した体型になっています。

直立歩行に必要な筋肉を大きくし、そこで大きな酸素、ブドウ糖消費が行われています。

大きな筋肉をある程度使って、相応のブドウ糖消費を行わせて初めて健康を維持できるような身体になっているのです。

従って、健康を維持し、適度な疲労を得るためには、背筋、大臀筋、大腿四頭筋などの大きな筋肉を使うことが一番です。

 

 要するに【立って歩く】という基本的なことを行うことが大切なのです。

 

 アフリカ大陸で食べ物を探して歩いていたルーシーは「毎日がウオーキング」でした。栄養不足に悩むことはあっても、運動不足に悩むことはありませんでした。

 

 そもそも、ルーシー以来、ヒトは長い間、飢えと闘ってきましたから、身体が低血糖になるのを防ぐために、血糖値を上げるホルモンを何種類も発達させ、血糖値を下げるホルモンは、インシュリン1つしか発達させませんでした。

つまり、ヒトの身体は、血糖値を上げることばかり考えて下げることをしないように作られています。そこに高カロリー食を撮り続ければ、当然、糖尿病になってしまうのです。

​​第131回

「都市型うつ」の効果的な治療として「歩く」ことは最適です。

 

 万歩計は廉価で入手出来ますし、スマホの歩数計が入っている場合もあるでしょう。

電車通勤より車通勤の方が、営業より内勤の方が、現場担当より管理部門の方が、運動不足のリスクは大きいと思われます。

週に5万歩前後といった目標を掲げて、ある程度は自分へのノルマとした方がいいでしょう。

 

「都市型うつ」予防法 Ⅶ 【睡眠日誌によるセルフ・マネージメント】

 

 一番大切なことは、自分自身の健康の記録をつけることです。

「睡眠日誌」「睡眠・覚醒スケジュール表」などの言葉をネットで検索してみて下さい。各種サンプルが入手できます。

「睡眠日誌」を書くことで得られることは実に多彩です。何より、睡眠・覚醒リズムを自分で意識することになります。

 

 働き盛りだけでなく、既にリタイヤした人にとっても「睡眠日誌」は有効です。

その場合、ウオーキングの時間や歩数、昼間、横になっていた時間なども書き込んで下さい。

 

 シニア世代にとっての課題は、眠ることではなくて、立って歩くこと。高齢者では骨の衰えや筋の衰えも進みます。

 

【人間の筋肉や骨は、地球の重力に耐える生活をして初めて維持できるように出来ています】

 

 60歳以降の健康的な人の場合、下腿三頭筋(主にふくらはぎの筋肉)が1年で約2%も減少します。

宇宙飛行士のように無重力空間にいると、毎日1%ずつ減少していきますから約半年分に相当します。

すなわち、毎日、一定の時間、地球の引力に逆らう生活を送らないと筋力はあっという間に衰えてしまいます。

 

 実際、昼間からゴロゴロして、地上にいながらにして無重力のような生活を送っている高齢者がいかに多いことか。

高齢者が不活発な生活に陥ると、メンタルにもフィジカルにも衰えていきます。

 「睡眠日誌」によるセルフマネジメントを「面倒くさい」などと感挙げないで下さい。毎晩、就床する時、あるいは朝食の前に直前24時間の記録を書けばいいだけです。

逆に、セルフケアを怠って、その結果、精神科を受診しなければならないとすると、その手間たるや大変です。
 

 


 


 

 


 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一に、抗うつ薬を使うことにほとんど意味がないということ。

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