精神医療を考える(Ⅲ)
第40回ーこの回からは、『睡眠薬中毒』(内海聡・PHP新書・2016年刊)からの「抜き書きノート」となります。
睡眠薬に関する次の文で正しいものはどれか?
1. 不眠を治さない薬。
2. 向精神薬である。
3. 依存性がある。
4. 服用の中止には禁断症状が伴う。
5. 海外では、麻薬と同様に規制されている。
6. 飲み続けると認知症になりやすい。
7. 飲み続けると早死にしやすい。
答えは、全て○である。
【睡眠は大事だからこそ、睡眠薬を使ってはいけない】
睡眠薬は、ただ脳を強制的に麻酔しているだけに過ぎない。
ある女性が、「不眠と軽い頭痛」で心療内科を受診し、最初に、抗不安薬と睡眠薬、鎮痛剤が処方されたがなかなか改善せず、4ヶ月後には「うつ病」と診断しなおされ、抗うつ薬、抗精神病薬(1日10種類18錠)が処方され、その後、どんどん多剤大量処方となり(1日13種類40錠)、最初の受診から7年5ヶ月後に突然死してしまった。
【睡眠薬は不幸の入り口なのである】
睡眠薬は安易に処方され、今や精神科に限らず、内科、整形外科、皮膚科でも処方されている。
日本では、成人の3割以上が不眠症状を抱え、5人に1人が不眠症で、国民の5%が睡眠薬か、睡眠薬代わりに抗不安薬を常用している。
【不眠症、「眠れない」という症状は病気なのか?】
そもそも、どこからどこまでが不眠症にあたるのか?
本来、何か心配事があれば、多少、眠れなくなるのは当たり前。それを薬で何とか為ようという考え方自体、不健康きわまりないこと。
現代人は、なにか症状があるとすぐ病院と捉えてしまう。
東京都監察医務院の、2013年東京23区の「不審死」のうち中毒死が80人(男女各40人)その内訳は、違法薬物による中毒死は1人で、殆どが医薬品によるもので36人、アルコールによるものが25人。多量服薬による自殺は含まれていない。
【検出される医薬品の殆どが精神科領域の薬なのである。中でも多いのが、強力な鎮静作用を持つパルビツール酸系睡眠薬。具体的にはベゲタミン、ラボナ、ロヒプノールである】
1種類の処方通りに服用している分には、中毒死に到ることは余りないが、【他の薬との相互作用によって何十倍、何百倍もの影響が出てしまう】
例えば、15種類の睡眠薬や抗うつ薬を服用した場合、相互作用は15倍にはならず、5000倍10000倍に効き過ぎてしまうのだ。
恐らく全国で毎年、大量服薬や自傷行為を伴う件数は1000件規模をくだらないだろう。
病院で入院中に亡くなった患者は、全て「病死扱い」され不審死には含まれないが、一月に全国の精神科病院では1500名以上もの入院患者が薬物中毒で死んでいる(2014年)。
2010年3月から自殺対策の一環として、不眠を早期発見して精神科医を受診させることが自殺予防につながると考え、内閣府が中高年男性をターゲットに「睡眠キャンペーン」を一斉に開始した。
睡眠キャンペーンのHPには、
「お父さん、眠れてる?」
「眠れてますか?2週間続く不眠は、うつのサインかも知れません。眠れないときはお医者さんへ」。
このキャンペーンが始まる前、全国に先駆けて静岡県富士市がその事前試行を行った。
2006年6月に「2週間以上続くと不眠はうつのサイン」という睡眠キャンペーンをはり、翌年1月には、かかりつけ医や産業医から精神科につなげる「紹介システム」を作り、さらに、市販の睡眠薬を購入する人に、薬局などで医療機関(精神科)への受診を勧める「受診勧奨」が積極的に導入された。
【ところが、その結果は富士市の自殺者はキャンペーンが本格始動した翌年から増加の一途を辿った】
2007年49人であった自殺者は、翌年には60人、翌々年には70人、2010年には72人になった】
同様の現象は、同じように睡眠キャンペーンを行った滋賀県大津市でも見られた。2007年66人だった自殺者が、翌年には81人に増加してしまったのである。
ある医師は「富士モデルは不治モデル」と明言。それなのに問題を検証するのでもなく、その後、睡眠キャンペーンは全国規模へ展開されていった。
【全国で行われた睡眠キャンペーンが、どんな影響をもたらしたのかについては、今も不明のままなのである】
第41回
2015年12月から「労働安全衛生法」が改正され、従業員50人以上の事業者は、ストレスチェックが義務化された。
従業員全員にストレスチェックと高ストレス者への面接指導を行うことが義務化されたのだが、名目上は、早期発見、早期治療となっているが、発達障害を含むうつ病などの精神疾患をあぶり出す「病気狩り」というべきものであった。
ストレスチェックに限らず、こんなに真面目に健康診断を実施している国は、日本くらいのものだ。
「職業性ストレス簡易調査票」57項目には、以下のような項目がある。
1. 非常にたくさんの仕事をしなければならない。
2. 時間内に仕事が処理しきれない。
3. 一生懸命、働かなければならない。
4. かなり注意を集中する必要がある。
5. 高度の知識や技術が必要な難しい仕事だ。
「そうだ」「まあ、そうだ」「やや違う」「違う」の4段階で回答するのだが、あくまでも主観的な回答なので、大半の真面目に仕事をする人は、「まあ、そうだ」と答える頻度が高くなり「ストレスあり」と判定されやすくなるように作成されているのだ。
(発達障害のチェックリスト75項目と非常によく似ていることに注意)
違法ドラッグやマリファナは、俗に「ゲートウェイドラッグ」とも言われるが、その意味は、それらはヘロインやコカイン、アヘンといった、さらに副作用や依存性の強い「ハードなドラッグへの入り口」になり得からだが、【向精神薬の中では、睡眠薬】がそれに該当する。
【睡眠薬(テンションダウン系・ベンゾジアゼピン系)を常用すると次第に体に耐性が出来、依存性が増し次第に効かなくなる。すると、精神科医は「うつ病による不眠ではないか?」と考え、抗うつ薬(テンションアップ系)を処方する。
睡眠薬と抗うつ薬を両方服薬すると、気分が上がっり下がったりしてくる。それを見た精神科医は、さらに「双極性障害だ」「統合失調症だ」と決めつけ、ますます多剤大量処方となり、患者の状態は悪化の一途を辿ってゆく】
【睡眠薬(向精神薬は全て)は、服用機関が延びるにつれて、体内に蓄積され、知らず知らずのうちに脳や体にダメージを与えてしまうのだ】
生物は多少眠れなくても、そう簡単には死なない。
現代人も人によって色々で、1日3~4時間の睡眠で全く問題はないショートスリーパーもいれば、数日間、寝ずに過ごしたという強者もたくさんいる。
2007年、イギリスのトニー・ライトは266時間不眠(11日間)の記録をうちたてた。
不眠症の人がよく訴える「眠れなくて死ぬ」ということはない。
睡眠薬では眠ることは出来ても、決して熟睡は出来ないのである。
睡眠には「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」があり、「レム睡眠」は、全身の筋肉が弛緩して体は休んでいる状態なのに、大脳は覚醒時と同じくらいか、それ以上に活発に動いている状態で、レム睡眠時の方が、目覚めがいいと言われるのは、大脳が活動して覚醒の準備をしているからなのだ。
「ノンレム睡眠」は、急速眼球運動を伴わず、大脳が休み、筋肉の緊張はある程度保たれ、寝返りを打つことが出来る状態。
【自然な睡眠は、眠り始めるとすぐにノンレム睡眠になり、しばらくするとレム睡眠へと移行する。これを一晩で数回繰り返す。その周期は約90分である】
【睡眠薬が作る眠りは、ノンレム睡眠でもなければレム睡眠でもない。無理やり脳を鎮静させる「ノックアウト型」の睡眠で、麻酔や飲酒によるものと変わらない】
お酒をある程度、飲むと、強制的に引きずられるように眠くなるが、一晩中、眠っていることは少なく、たいていはしばらくすると目が覚める。つまり、睡眠薬と同じで、波のある自然な眠りでもなんでもない。
睡眠薬を服用している人がよく言う「昼間も眠くなる」「眠ってもだるさがとれない」というのは、睡眠薬がもたらす眠りの性質を考えると当然なのである。
しかも、睡眠薬を服用すると、【呼吸が浅くなってしまう】
睡眠薬と麻酔は同じなのだから、呼吸が抑制され、酸素を十分に取り込めなくなり、血液中の酸素が不足した状態になり、その状態が続くと。脈拍や血圧が上昇し、不整脈や意識障害を引き起こす。
「閉塞性肺疾患」などの持病があり、元々、肺の機能が衰えている高齢者が睡眠薬を飲むとさらに呼吸がしづらくなってしまう。
「高地での睡眠薬の服用は避けた方がいい」というのも頷ける。
第42回
睡眠薬を飲んでいる眠りは、お酒を飲んで眠るのに近い。【意識が飛んで奇妙な行動をとることもあり、その記憶もないのである】
【睡眠薬でつくられた眠りでは、脳と体の急速は得られない。そのため、かえって疲れるだけでなく、気づかないうちに、睡眠薬に体は徐々に蝕まれてゆく】
【睡眠薬は向精神薬であることを理解していない人が結構多い】
内科や整形外科など、精神科以外で睡眠薬を処方されている人が多いからだろうか?
睡眠薬の大まかなメカニズムは、脳内の神経伝達物質の機能を遮断するか、活発化させることで、中枢神経の活動を抑制(脳の興奮を抑えて)し眠りに導くことだ。
【だから、人間の体に及ぼす効果は、他の向精神薬と何ら変わらない】
【睡眠導入剤】とは、睡眠薬の怖いイメージをごまかす名称に過ぎない】
睡眠導入剤は、何れも、半減期の短い睡眠薬を指す。具体的には「ハルシオン」「アモバン」「マイスリー」「ルネスタ」(商品名)など。
「半減期」とは 「薬を服用した後、薬の成分の血中濃度が最高到達度の半分になるまでかかる時間」のことで、例えば、「ハルシオン」の場合、飲んでから1時間前後で血中濃度が最も高くなり、2~4時間で半減する。
【つまり、睡眠導入剤は、効果が現れるのも、効き目が切れるのも速いため】、「寝つきの悪さ」を訴える患者によく使われる。
他の睡眠薬に比べて短時間で成分が体から抜けていくことから、大半の精神科医は「安全性が高く心配はいらない」と処方している。
ところが、「夜中に冷蔵庫を漁ってケーキを食べたのを全く覚えていない」などという話を一番聞くのが、睡眠導入剤の「マイスリー」である。
「ハルシオン」に至っては、わずかに過量服用しただけで【記憶喪失】を引き起こす(続く)。
睡眠導入剤「ハルシオン」は、わずかに過量服用しただけで記憶喪失を引き起こす。又、すぐに効いた気がして健忘が出やすく、酔っ払いがラリっているのと同じ状態になる。
アメリカで、母を撃ち殺したユタ州の50代の女性が、「日頃、用いていたハルシオンの精神障害によって引き起こされた殺人事件である」として不起訴になった事件がある。
その女性が、ハルシオンの製造元アップジョン社(現ファイザー)を訴えたところ、当初は非を認めなかったが、裁判所から臨床試験データを提出するように言われた途端に和解を申し出た。
さらに、臨床試験で被験者が妄想やうつ病、記憶障害などの重大な精神症状を引き起こしていたのに報告せず、FDA(アメリカ食品医薬品局)の調査で、他にもデータの捏造が行われていた事実が判明した。
以来、欧米ではハルシオンの販売が中止されたり、医療保険の対象から外されたり、あるいはその主成分トリアゾムの容量を厳しく制限したりして自由に使えなくなっている。
【はっきり言って、トリアゾムヲ1回分0.5mgも処方しているのは世界中で日本だけなのである】
睡眠導入剤というオブラートに包んでも、睡眠薬であることには変わりはない。そして、睡眠導入剤が、睡眠薬の中で安全性が高いというわけで決してない。
【薬局やドラッグストアで販売されている睡眠改善薬のことを睡眠導入剤だと勘違いしている人もいる】
睡眠改善薬は睡眠薬に含まれている成分とは違い、鎮痛剤や抗ヒスタミン薬に含まれている眠気を誘う成分を利用したもの。
「副作用」という言葉は、製薬会社や医療界が患者に薬を飲ませたいが為に作り上げた都合のいい概念に過ぎず、薬が人体に及ぼす影響や結果は、全て「作用」であり「副作用」でも「主作用」でもないのだ。
睡眠改善薬は、具体的には脳内の神経伝達物質の1つで、覚醒の維持に関わるヒスタミンが受容体と結合するのをブロックし、脳が覚醒するのを抑制させるのである。
睡眠改善薬は、医師の処方箋がなくても購入でき、睡眠薬以上に気軽に頼っている人が多い。
【しかし、睡眠薬の害は、睡眠改善薬でも全く同じなのだ】
第43回
【睡眠薬をはじめ全ての向精神薬は麻薬と同じ】
覚せい剤やコカインに比べて、依存性や副作用がややマシなだけで、高い依存性を持ち、深刻な副作用や後遺症、中断時の禁断症状を生み出すという点で麻薬と同じようなものなのである。
日本では「麻薬及び向精神薬取締法」という法律があり、向精神薬も取り締まりの対象にしているが、「麻薬に関する取締り」と「向精神薬に関する取締り」に分け、向精神薬をさらに第1種から第3種まで3段階に分類している。
【海外ではバルビゾール酸系やベンゾジアゼピン系は、麻薬と全く同列に扱われている】
例えば、アメリカでは、麻薬や特定の薬物の製造や濫用を規制するために「規制物質法」という法律があり、濫用の可能性、医学的用途の有無、中毒の可能性に応じて規制対象物質を「ステージ1~5」に分類している。
【日本で処方されている睡眠薬ロヒプノール、サイレース(共に商品名)は、アメリカ各州によって、大麻やヘロイン、MDMAなどと同じ「ステージ1」に指定され、持ち込みが禁止されている】
このように、【海外では、睡眠薬をはじめとした向精神薬は全く麻薬と同じように厳格に規制されているのだ】
抑制系の神経伝達物質GABA(ギャバ)は、その受容体と結合することで脳内の興奮を抑制する作用があり、現在、使われている睡眠薬の多くは、このGABAの作用を利用している。
すなわち、GABA受容体に作用して、GABAと結合しやすくし、GABAが持つ抑制作用を増強しているのである。バルビツール酸系、ベンゾ系の睡眠薬も、この仕組みを利用しているのだ。
コカインは、ドーパミンの再取り込みを阻害する。
神経伝達物質は、神経細胞から飛び出して、別の神経細胞の表面にある受容体とくっつくことで、情報を伝えるのだが、受容体とくっつかないで余っていると、再びもとの神経細胞に取り込まれる。これが「再取り込み」だ。
「再取り込みを阻害する」ということは、ドーパミンが飛び出したままということだから、シナプス内のドーパミン濃度が高まる。ドーパミンは、快感や多幸感を得たり、意欲を感じたりする機能を担う。
コカインでドーパミンを強制的に増やせば、多幸感、高揚感、覚醒感がもたらされる。
MDMAは、「セロトニン」の再取り込みを阻害し、シナプス内のセロトニン濃度を高める作用がある。これは、抗うつ薬の作用機序と全く同じなのだ。
新型の抗うつ薬SSRIは「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」でその作用は、上記のMDMAと全く同じなのである。
【睡眠薬や抗うつ薬といった向精神薬も、コカインやMDMAなどの麻薬も、神経伝達物質が働く過程に作用し、その機能を増強するか、遮断するかという基本は全く同じである】
【違うのは、どの神経伝達物質に作用するかというだけで、やっていることは全く同じなのだ】(続く)
脳内の神経伝達物質に対してダイレクトに作用するのは、実は、「農薬」も全く同じなのである。
農薬は歴史的に見れば主に3つの種類がある。
先ず、最初は「有機リン系」で、第二次世界大戦前後から使われた農薬である。
この「有機リン系」は、神経伝達物質のアセチルコリンが分解されるのを邪魔して、アセチルコリンを過剰に増やすことで虫を死に至らしめる。
アセチルコリンには、神経を興奮させる働きがあるため、「有機リン系」の農薬を散布された虫は神経を興奮させ続けて死に至る。
1995年に起きた地下鉄サリン事件では、治療にあたった医師たちは、有機リン中毒の解毒剤を使って被害者の命を救った。
確かに、有機リンとサリンには同じ作用機序がある。
【アルツハイマー病の薬も全く同じ作用機序を持っている】
(略)
農薬の3つ目は、1970年代にアメリカで開発された除草剤用の「グリホサートイソピルアミン塩」である。これは、ドーパミンやノルアドレナリン、セロトニン、メラトニンという神経伝達物質を生み出す過程の必須アミノ酸であるフェニルアラニン、チロシン、トリプトファンの合成を阻害する働きがあり、合成自体を不可能とし即効で死に至らしめる。
【結局、農薬がどうやって虫や雑草を殺しているかというと、神経伝達物質の作用を無理やり増強するか、アミノ酸の合成を阻害して無理やり断ち切るかのいずれかであり、睡眠薬や精神薬や麻薬がやっていることと基本的には全く同じなのである】
睡眠薬はアルコールにも似ている。
共にGABA受容体に作用するが、アルコールの場合は興奮系の神経伝達物質の受容体にも作用するなど実は作用機序が決まっていない。
寝酒によって生じる状態は、睡眠薬とよく似ているのに、多くの医者は「寝酒は止めなさい。体に悪いから睡眠薬にした方がいい」と睡眠薬を処方するが、果たしてそれは正しいのだろうか?
第44回
「 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」(厚労省)には以下のような記述がある。
「アルコールには、一時的には寝つきが良くなり睡眠がとりやすくなったように感じる効果があります・・睡眠をとるため、アルコールを毎日飲んでいると、徐々に体が慣れてしまって効かなくなり、アルコール性の不眠の原因になります。又、アルコール依存性に陥ってしまう危険性があります。
不眠が続くようでしたら、アルコールに頼らずに医師と相談し、診断の結果、睡眠薬が必要であれば服用することをお勧めします。睡眠をとるため(睡眠薬代わりの)寝酒は百害あって一利なしです」。
これは「アルコール」と「寝酒」の部分を、「睡眠薬」に入れ替えて頂いて全く構わない。
【つまり、睡眠をとるための睡眠薬こそ、百害あって一利なしなのである。確かにアルコールも体には良くないが、量を保てば、睡眠薬よりは余程マシである】
【睡眠薬の一番の問題は、睡眠薬なしでは眠れなくなってしまうことだ】
国内で最も売れている睡眠薬「マイスリー」(商品名)の添付文書の「重大な副作用」の1番目に「依存性、離脱症状」と書かれている。
特にベンゾ系睡眠薬は、コカインや大麻、アルコールよりも依存性が高い。
海外では、睡眠薬の処方については規制がかけられている。
例えば、イギリスでは、ベンゾ系睡眠薬は「短期間の救済措置のみ」とされ、4週間以内での処方しか認められていない。
フランスでも、不安障害の治療(抗不安薬)には12週間、不眠症の治療(睡眠薬)には4週間以内とされ、香港や台湾でも同様である。
日本では、上記の「ガイドライン」によれば、以下のように記されている。
「あなたが睡眠薬の服用を始めたばかりなら、先々、止められなくなるかどうかを心配するより、先ず、医師の指示通りに服用して症状を改善させることを最優先にすべきでしょう。
現在、用いられている大部分の睡眠薬には強い依存性はありません。従って、服用を始めてから短時間で止められなくなることはありません。
ベンゾ系、非ベンゾ系睡眠薬も、その有効性は概ね1週間以内に発現するが、1~2週間以上、継続することで、さらに主観的な睡眠潜時の短縮や睡眠の質の改善が得られる割合は増加する」。
【これは、睡眠薬による依存をしっかりつくって、患者を囲い込むための嘘でしかない】(続く)
2014年10月から、処方される薬に以下のような規制がようやくかけられた。
「1回の処方で、3種類以上の抗不安薬、3種類以上の睡眠薬、4種類以上の抗うつ薬又は、4種類以上の抗精神病薬を処方した場合は、原則的に診療報酬を減額する」。
睡眠薬は一応、2種類までしか処方できなくなったが、しかし、「他の医療機関で既に多剤投与されていた場合」や「精神科の診療経験が十分にある医師が投与した場合」は、3種類以上、処方できるという抜け道があった。
【上記の規制には、処方量や日数についての制限はない】
「1回に処方できる睡眠薬は30日分(種類によっては90日)まで」というルールはあるが、あくまでも「1回の処方で」というルールなので、患者が薬をもらいに行けば、いくらでも継続して服用できるのである。
【日本のように処方期限に制限がなく、継続服用を勧めるのは論外である】
諸外国のように、睡眠薬服用の期限4週間でも実は長い。【たった1日でも依存はつくられるのだ】
一度でも「睡眠薬を使えば簡単に眠れる」ことを知れば、薬がないと不安になり依存がつくられてしまう。
睡眠薬は、同じ薬を飲み続けていると次第に効かなくなる。
こうした状態を一般には「耐性がつく」というが、なぜそれが起きるのかを説明する最も有力な仮説が【ダウンレギュレーション】という。
どの薬も、薬に含まれたある物質が、体内の受容体にピタッとくっついて初めて作用する。
睡眠薬の場合は、脳内のGABA(抑制系の神経伝達物質)の受容体に働きかける。
「ダウンレギュレーション」とは次のように説明できる。
【睡眠薬を飲み続ける。そうすると睡眠薬の成分が脳内で余り始め、全ての成分が受容体にくっつくと強力に作用し、必要以上に眠くなるので、体の方が受容体の数を減らし始める】
このように「耐性」がつくと、同じ薬、同じ量では効き目が感じられなくなり、さらに強い薬にするか、増量するかの繰り返しを延々と続けてしまい、どんどんドツボにはまってしまうのだ。
受容体が減少しているにも関わらず、毎晩、睡眠薬を服用すると、受容体とくっつかなかった物質が体内で余り、睡眠薬は脂溶性なので、脂肪の中に蓄積されていく。
【そして、それらは、脂肪の塊である脳自体に蓄積されやすいのだ】
【ダウンレギュレーションで、GABAの受容体が減ると、GABAが普段から作用しなくなる。その結果、睡眠薬を飲めば飲むほど、不安や緊張が増し、精神的に脆弱になってしまいますます睡眠薬に依存してしまう】
第45回
睡眠薬を断薬した際の禁断症状の中で、「不眠」の次に多いのは「強い不安」である。
睡眠薬に手が伸びる人は、元々、不安感が強い人なのかも知れない。
【断薬時に出る不安は、睡眠薬を使う前よりも強い不安であることが多いのである】
ベンゾジアゼピン系の薬の禁断症状には、強い肩こりや筋肉痛、頭痛などがあるが、それは、元々、ベンゾジアゼピン系の薬には、筋弛緩作用があり、肩こりや筋肉痛がとれたように感じるからなのである。
【薬が効く時間が短くなり、薬の効果が切れてくると、さらに症状が悪くなるのは睡眠薬ばかりではなく、他の向精神薬でも同じなのである】
神経伝達物質は、本来、体内で量を調節するもので、薬で無理やり増やしたり減らしたりするものではない。「必ず何かが狂ってしまう」。
【向精神薬は、違法ドラッグやアルコールよりも脳細胞を破壊することが分かっている】
アイオワ大学の精神医学者ナンシー・アンドリーセンの研究によれば、「統合失調症」と診断された患者の脳は、正常な人の脳より急速に萎縮し、特に抗精神病薬を大量に投与された患者ほど、脳が萎縮していることが判明した。
【抗精神病薬こそが、精神症状の重症度や、違法ドラッグ、アルコールの濫用度よりも、脳細胞を殺し、脳の萎縮を進めている張本人なのだ】
この統合失調症などに使われる抗精神病薬を、日本の精神科医たちは不眠治療のために併記で初歩しているのだ。
【睡眠薬を飲み続けるということは、自ら脳細胞を殺しているのに等しい。ますます不眠や不安が増大し、さらに記憶が飛んだり、認知症のような症状が出やすくなるのだ】
2012年、イギリスのカーディフ大学の医師グループの調査によれば、ベンゾ系の薬を定期的に服用していた男性は、飲んでいない人に比べ、認知症の発症リスクが3.5倍増加するという結果を発表した。
睡眠薬(向精神薬)の服薬で、脳細胞のどの部分がやられるかで症状は変わる。
記憶力や思考力、計算力の低下、あるいは芸術性や視覚、人間性に支障を来す。
服薬後、それぐらいで現れるのかは個人差があるが、早い人は1~2ヶ月で症状が現れる。
性格だって変わる。神経系に作用して、運動機能障害や、パーキンソン症候群やギランバレー症候群など、神経内科で扱うような病気を引き起こしたりする。
多くの医師は、「脳にとって睡眠は大事なので、睡眠薬を使って眠った方がボケ防止になります」などと併記で嘘をついて処方する。
「睡眠薬を服用してから、ボケてきたような気がするんですが、睡眠薬のせいでは?」と患者が訴えても、「年のせいですよ」と一言で簡単に片付けられてしまう。
【薬のせいだと気づかれないまま「仕方がない」と片付けられている症状は結構多い】
インディアンやアイヌ、イヌイット、戦前の人たちにボケは少なかった。
例えば、アイヌの墓地の遺跡調査の結果では、65歳以上の人骨の出土率が3割を超え、高齢者が多く長生きしていたことがわかる。80代、90代になってもボケることなく、しっかり話し、自分の足で歩ける人も多かったのだ。
その理由の1つは、【塩をしっかり摂り血圧が高かったからである】
塩とは、化学的に精製された精製塩ではなく、昔ながらの自然塩のこと。
【高齢者の血圧が高くなるのは正常な生理作用なのだ】
【血圧が低い方が癌になりやすく、感染症や認知症になりやすいことが、各国の研究でわかっている】
血圧はポンプの力のようなもので、末梢へ血液を押し出す力なので、降圧薬などで無理に下げると「血流不全」を引き起こしてしまう。
【異常な高血圧は、やはり食事で下げなければならないが、だからといって下手に減塩してもいけない】
理由の2つ目は、【昔は、睡眠薬を含めた神経細胞毒が存在しなかったからなのである】
20Cに入って、薬や農薬の他に、人工甘味料やトランス脂肪酸、グルタミン酸ナトリウム(化学的うま味調味料)などの食品添加物などが次々と発明、消費され、気づかないうちにそれらは体内に蓄積し、少しずつ脳細胞を死に至らしめている。
代表的な神経細胞毒の1つが、向精神薬で、その入り口になっているのが睡眠薬なのだ。
偽りの眠りを手に入れることと引き換えに、脳細胞を破壊し、認知症や神経疾患の発症リスクを高めているのだから、余りにも、それは割に合わない取引と言える。
第46回
睡眠薬の服用がもたらす弊害は、他にも数多く報告されている。
睡眠薬などの向精神薬は、肝臓の酵素で分解されるので、毎日、飲んでいると当然、肝臓に負担をかけることになる。
しかも、向精神薬に限らず、脂溶性の毒物ー農薬、食品添加物、トランス脂肪酸など、現代に特有な神経細胞毒ーも殆ど、肝臓で分解されるので、これらの脂溶性毒物を日々、摂っている人は、その分、肝臓を疲弊させている。そのため、肝機能障害を起こす人が多い。
又、睡眠薬をはじめとする向精神薬は、松果体、脳下垂体、視床下部といった脳のホルモンを分泌する部分に障害を起こしやすい。
これにやられると、ホルモンが乱れるため、肝臓、心臓、消化器、腎臓、眼など全身に影響を与える。
台湾の医師グループが、国民健康保険のデータベースから、2005~2009年に、「脳卒中」と診断された12747人の患者を解析した結果は以下の通りであった。
【睡眠薬ゾルビデム(マイスリー)服用者は、服用していなかった患者に比べ、脳卒中の発症リスクが1.37倍高いことが判明した】
さらに、年間の服用量が増えるにつれて、上昇していた。
年間 70mg以下 1.2倍
71mg~470mg 1.41倍
470mg超 1.5倍
【又、睡眠薬の服用で、がんが増えるという研究もある】
アメリカのスクリップス研究所の医師チームが、ベンゾ系、非ベンゾ系、バルビツール酸系の睡眠薬を処方された成人10529人(平均54歳)は、何れの睡眠薬も飲んでいない同世代の23676人を対象に、平均2.5年間の追跡調査をしたところ、これらの睡眠薬を多用している人(平均132回超)は、服用していない人に比べて、がんの発症リスクが1.35倍増加していたのだ。
又、【睡眠薬を毎日服用している人は、全く服用していない人に比べ、死亡リスクは25%高くなる】
睡眠薬の服用量が増えるにつれ、早死にする率も上昇する。
年間 0.4回~18回分 3.6倍
18回~132回分 4.43倍
132回超 5.32倍
しかも、年齢層の高いグループでは、生存率カーブが大きく下がる。
【睡眠薬を服用すると、病死だけでなく、実は自殺も増えることがわかってきている】
【睡眠薬を服用すると、病死だけでなく、実は自殺も増えることがわかってきている】
悩みを抱え、「ふと、死にたい」「楽になりたい」と思ったことがある人は多い。
それでも、多くの人が自ら死を選ばないのは、死に対する恐怖があるからだ。
睡眠薬や抗うつ薬などの向精神薬に共通しているのが、苦悩しているときに、こうした薬を飲むと【恐怖というたがが外れてしまう】
睡眠薬を飲んで朦朧となると、簡単にビルから飛び降りたりする。
高所恐怖症の人でも、感覚が麻痺するので怖さを感じなくなってしまう。
睡眠キャンペーンを大々的に行った、富士市などでは、かえって自殺が増えたのも、【睡眠薬が自殺を誘発したと考えると全く不思議ではない】
逆の話もある。
「睡眠薬や向精神薬が自殺を増やしているのではないか」と考えた全国自死遺族連絡会が、「精神科を受診しないよう」「向精神薬を服用しないよう」などと役所や市民に対して啓蒙運動を行ったところ、活動の本拠地である宮城県では20%以上も自殺率が改善したのである。
【睡眠薬は自殺を誘引する】
だから、どんなつらいことがあっても、いや、死にたくなるほどの辛さを抱えているときこそ、睡眠薬を飲んではいけないのだ。
2008年12月、埼玉県S市で木造2階建ての家が全焼し、そこに住んでいた女性と4歳の女児が死亡する事件が起きた。夫による放火であるとして裁判が開かれたが、さいたま地裁は無罪の判決を出した。
その判決理由は、「夫を犯人とは断定できず、服用していた睡眠薬の影響で妻が放火に及んだ可能性を排除できない」というものであった。
実際に、睡眠薬禁断症状で、精神が不安定になって放火したとか、放火犯が犯行に及ぶ前に睡眠薬を飲んでいたという事件は複数ある。
【睡眠薬は、自殺だけではなく、他殺を誘発することもある】
第47回
新薬の開発過程で行われる臨床試験(治験)には多くの偽りがある。
科学研究で不正が行われていないか監視するアメリカの政府系機関である科学基準局のリチャード・ロバーツ博士は『医者が患者をだますとき』で次のように述べている。
「科学者が科学誌に発表するデータの半分、あるいはそれ以上が無効である。研究者が正確にデータを測定しようとした証拠もなければ、首尾一貫して研究が行われたという証拠もないのが現状だ」。
「アメリカ医学会の良心」と呼ばれた故ロバート・メイデルソン医師は、「臨床試験の結果に科学性を認められるのは、結局、全体のわずか3分の1程度に過ぎない」と述べている。
【新薬の臨床試験(治験)は、製薬会社の社運がかかっている分、不正が行われやすい】
睡眠薬の治験で重要なのは、「眠れるか」ではなく、「安全性」、つまり「副作用」の筈である。
睡眠薬のような神経細胞毒が怖いのは、毒物が蓄積されることで、記憶力や思考力の低下を引き起こすが、それらは、ある程度の時間が経たなければ実感しづらいにも関わらず、せいぜい数週間で治験は行われ、「記憶力が落ちましたか?」と聴かれても、答えは「いいえ」になってしまうのだ。決して長期間に及ぶような調査は行われない。
INBC(国際麻薬統制委員会)がおこなった、世界各国のベンゾジアゼピン系睡眠薬の消費量を比較したデータ(マニュアルレポート2010)では、日本は、1位のベルギーに次ぐ2位で、3位以下と比べると突出している。
ところが、このデータには、日本の複数の診療科で重複処方されているエチゾラム(商品名デパス)が含まれていないため、本来は日本が断トツで多いという指摘がある。
薬の効きは人種、体格によっても異なるため、人種や体格が比較的近いアジア圏で比べても日本は突出して多く、中国のほぼ45倍も消費しているのだ。
国全体の年間消費量に換算すると、日本は20億9000万錠で、【世界一、ベンゾジアゼピン系睡眠薬が売れている国で、2位イタリアは6億9000万錠、3位フランスの3億4000万錠を大きく引き離している】
【日本は、世界一の薬漬けの国なのだ。もっと言えば、欧米の製薬会社にとって日本は一番の在庫処分場なのである。薬漬けになってもなお「もっと睡眠薬を」と言っているのが日本人なのだ】
「不眠」という生理的な反応を病気と定義することが出来れば、精神医学会や心理学会が莫大な利益を手に入れることが出来る。
「不眠」というのは、範囲を広げれば、ほぼ全ての人に存在する反応だから、病気にしてしまえば、あとはやりたい放題なのである。
薬を飲んでいる限り永久に対処力は身につかないので、一生、薬を飲み続けるしかなくなる。こうして、精神科医にとっての優良顧客=固定資産が、又、1人生産されてゆく。
1903年、最初のバルビツール酸系睡眠薬であるバルビタール(商品名ベルナール)が発売され、当初は「全く安全で毒性皆無」の薬としてもてはやされた。
1950年代には、世界中で続々と新たなバルビツール酸系睡眠薬が開発されたが、依存性の高さや過量服用による死亡事故などが社会問題化した。
それに代わり、ベンゾジアゼピン系睡眠薬が、1960年代に主流となったが程なく、バルビツール酸系睡眠薬と同様の依存性があることが判明し、1980年代にベンゾジアゼピン系とは異なる化学構造を持ち同じ作用を示す非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が登場した。
しかし、これも依存性や副作用は大差なく、2010年にはメラトニン受容体作動薬が、2014年にはオレキシン受容体拮抗薬が「既存の睡眠薬とは異なる作用機序」を宣伝文句に登場した。
このように見ると、少しずつ進化しているように見えるが、形態や構造が変わっても本質的には変わっていないのである。
1860年代から1960年代頃までは、精神的苦痛の治療には、アルコール、アヘン、モルヒネ、ヘロイン、コカインなどが使用され、不眠に対しても薬がない頃にはアルコールが使われていた。
睡眠薬が医療現場で使われるようになったのは、1857年に登場した無機化合物のブロム塩が最初であったが、半減期が12日間と長く、朦朧とした状態になりやすいなど副作用が問題となった。
1869年に登場した抱水クロラールは、不眠症を改善する「新しい脅威の薬」として脚光を浴びたが、毒性が強く、当時、処方されていた量の5倍程度で死に至るほど強力なものであった。
1900年代、プロムワレリ尿素(商品名サルモチン、プロバリン)という臭素化合物が睡眠薬として使われるようになった。これも、抱水クロラール同様、毒性が高かった。
20C半ば当時、この睡眠薬は日本では自殺目的で多用された。金子みすゞは、このサルモチンで自殺し、太宰治も最終的には入水自殺をしたが、何度もこの薬で自殺を図った。
第48回
中でも特に怖いと思うのは、【他の薬との相互作用】である。
バルビツール酸系睡眠薬単体でも強力な作用を持ち、呼吸を抑制するにも関わらず、他の薬と一緒に服用すると、相互作用が何倍にも効く。そうすると、鎮静効果、呼吸抑制がさらに高まり間違うと中毒死に至る場合もある。
さすがに、これだけ毒性が強い睡眠薬は誰も使いたいとは思わないだろう。
当然、海外ではこの睡眠薬は廃れていったが、【ところが日本では、今でもなお、臨床現場で普通に処方されているのだ】
【バルビツール酸系睡眠薬は、海外では余りにも危険なので、睡眠薬としては殆ど使われず、麻薬として規制の対象になっている】
現在、不眠を訴える患者に最初の睡眠薬として処方されることはさすがにないだろうが、処方された睡眠薬が効かなくなって次の睡眠薬へと移っていく過程でバルビツール酸系睡眠薬が処方されるとは珍しくない。
日本で、未だに処方されている主なバルビツール酸系睡眠薬は、主に「ベゲタミンA、B」「ラボナ」であるが、「ベゲタミン」の添付文書には、「重大な副作用」欄の2番目に「突然死」「心室頻拍」と書かれているのである。
以下、日本でのベンゾジアゼピン系睡眠薬の変遷を整理してみよう。
最初のベンゾジアゼピン系睡眠薬は、1961年に発売された「バランス」「コントール」(共に商品名)であった。
ベンゾジアゼピン系薬は、元々抗不安薬として開発され、その中でも催眠作用の強いものが睡眠薬として使われていた。
バルビツール酸系睡眠薬もベンゾジアゼピン系睡眠薬も、GABA受容体に作用し、GABAの働きを強めることで催眠作用をもたらす。
確かにベンゾジアゼピン系睡眠薬は、バルビツール酸系睡眠薬のような過量服用による中毒死は起こりにくいが、依存性はバルビツール酸系睡眠薬以上なのである。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、飲めば飲む程、精神的に脆弱になり、ひどい筋肉痛が出るのが特徴で、「前身に激痛が走る」「全身を針で刺されているような痛み」を訴える患者も多い。
1980年代に「副作用が少ない」と宣伝された非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が登場したが、実際には、依存性があって止めにくいのは全く変わらず、若干いいか位の違いしかないのだ。
イギリスのインディペンデント紙に、「ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、30年前に脳障害との関連性が疑われていた」という記事が掲載され、後に何百万人にも処方されることになる精神安定剤には脳障害を引き起こす可能性があることが、30年前に既に政府の専門家に警告されていた秘密書類があると記されていた。
「アルコールの長期依存による影響と類似する脳の萎縮が見られる場合がある」とした精神科医による研究報告を受け、1982年、イギリスのMRC(医学研究審議会)は、ベンゾジアゼピン類の長期的影響について大規模研究に同意したのである。
しかし、実際には、そのような薬の影響を調べる研究は行われることはなく過ぎた。
イギリスでは知らない間に薬物依存にされた人が現在、約150万人おり、その多くは明らかに脳障害と思われる症状を呈している。
上記の問題に対して、「精神安定剤による不本意依存」を調査するイギリス国会の超党派委員会のジム・ドッピン委員長は、「薬を止めた後も、多くの人が、身体的、認知的、そして精神的な問題を抱えた被害者になっている・・・なぜ、MRCは適正な追跡調査を全く行わなかったのか?なぜ、安全委員会が設置されなかったのか?何らの詳細な研究もない。これは一大スキャンダルだ」と批判を浴びせた。
最初は全く無害な薬として宣伝され、1960年代における世界初の「ワンダードラッグ」(奇跡の特効薬)として登場したベンゾジアゼピン系は、10年も経たないうちにイギリスで最も一般的に使われる薬となった。
現在の医師向けガイドラインでは、【最長4週間の処方とされている】。
しかし、数日間の服用でも依存症にアンルことがあり、服用を止めると灼熱感や視野の歪み、頭痛や致命的な発作といった禁断症状を起こすことがあるのだ。
数ヶ月あるいは数年間の服用の場合は、永続的な神経的な痛み、頭痛、認識機能障害及び記憶障害もある。
【そして、30年以上経った今も、それが薬物性の脳障害かどうかを確認する医学的研究は行われていない】
第49回
現在、日本でよく使われている睡眠薬は以下の通りである。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬
ハルシオン、レンドルミン、サイレース(ロヒプノール)、エバミール、ベンザリンなど。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
アモバン、ル値スク、マイスリーなど。
この2つの系統の睡眠薬の中で、最も問題が大きく取り上げられたのは、1983年に販売された「ハルシオン」である。
1979年、オランダの精神科医が「ハルシオンは急性精神病のような症状や妄想や思考の混乱を起こしうる」という見解を発表し、以後、大々的に報道され、オランダでは1980年から10年間、販売が禁止された(後に用量を規制し再び販売)。
「ハルシオン」は半減期(薬の成分の血中濃度がピークの半分に達する時間)が約2.9時間と短く、1日1回の服用では、服用と服用の間に禁断症状のようなものが出るため、それが副作用の多さにつながる。
半減期の短い睡眠薬は、切れがいいので、安全であるかのように処方されがちだが、そのために禁断症状を起こし昼間でも欲してしまう人がいる。
イギリスやブラジルなど、いくつかの国では販売が禁止されている。アメリカやカナダなどでは、販売はされているが、使用期間を短気に限るなど厳しい規制がある。
【ハルシオンが全く規制なく処方されているのは、日本くらいのもの。2001年の実績では、世界の60%を日本が消費している】
又、「ロヒプノール」は強姦犯罪で事前に使用されていたり、ヘロインやコカインの効力を増強するために併用されていたりといった問題が起こり、アメリカでは医療用として承認されていない。又、持ち込みも一切、禁じられている。
【そのロヒプノールが、日本では特に規制なく普通の処方されているのである】
現在、使用されている主な睡眠薬の半減期(薬の成分が血中濃度でピークの半分になるまでの時間)から分類すると、以下の3つになる。
超短時間作用型 マイスリー(2時間)、アモバン(4時間)、ハルシオン(2.9時間、
短時間作用型 デパス(6時間)、レンドルミン(7時間)、リスミー(10時間)
中間作用型 エリミン(12~21時間)、サイレース(24時間)
長時間作用型 ダルメート(65時間)
作用時間が長い方がいいかというと、半減期が長ければ長いで別の問題が生じる。
中間作用型でも半減期は24時間前後だから、服用してから1日経っても血中濃度がピーク時の半分しかなっていない。
つまり、半減期が24時間の睡眠薬を毎晩、飲んでいる人は、昨夜飲んだ分の作用がまだ残っているのに、さらに血中濃度をあげていることになる。それを毎晩、飲み続ければ血中の睡眠薬濃度はどんどん高まっていくばかりなのだ。
【薬というのは「有効血中濃度」といって、ある一定の濃度に達しなければ、作用は出ない】
しかし、半分、残っているところに薬を足していくと、血中濃度が下がらないまま作用が出続けてしまう。当然、余計な症状も増える。それに対して、別の向精神薬を処方されれば、ますます分解されにくくなり、どんどんたまっていく。
2010年には「メラトニン受容体作動薬」、2014年にはオレキシン受容体拮抗薬という新たな枠組みの睡眠薬が開発された。
メラトニンとは夜になると脳の松果体から分泌される神経伝達物質で、メラトニンがメラトニン受容体にくっつくと眠気を感じるようになると言われている。
そこで、メラトニンを人工的に増やして眠気を感じやすくしようというのがこの薬の仕組みで、その成分「ラメルテオン」(商品名ロゼレム)を販売する製薬会社によれば「鎮静作用ではなく、自然な眠りを導く睡眠薬」を売りにしている。
しかし、「ラメルテオンで眠れるようになった」という声を聞いたことはなく、ベンゾジアゼピン系睡眠薬や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬よりは湯外作用が少ないかも知れないが、決してないわけではなく、そのそも【作用自体が弱くしただけなのである】
又、オレキシン受容体拮抗薬は、覚醒状態を維持する働きを持つ神経伝達物質であるオレキシンの受容体に作用する薬だで、オレキシンが受容体にくっつくのを阻害して、オレキシンが働かないようにして脳を眠らせようとというのが基本的な考え方なのだ。
オレキシン受容体拮抗薬物である「スポレキサント」(商品名ベルソムラ)は、日本で開発された睡眠薬(2014年11月発売)であるが、神経伝対物質の働きをコントロールする薬であることは、既存の睡眠薬と基本的には変わらないので、結局は同じだろうと確信している。
スを食べ始めたら止まらなくなったりするのと同じで、いかに愚かな行為であることか?